クレアチン10g vs 5g、認知機能への効果は用量で変わるか
最近、一部のバイオハッカーやインフルエンサーが「クレアチンは10g/日、高負荷日は15-20g摂れ」と推奨しているのを見かける。
理由は「脳にもクレアチンが必要だから」だそうだ。
本当にそうか?
俺は効果サイズで物事を判断する。「理論上効く」じゃなくて「現実的に差が出るか」が重要だ。
今回は、クレアチンの用量と認知機能の関係を、最新のRCTとメタアナリシスで検証する。
結論:用量を増やしても認知機能の効果サイズは変わらない
先に結論を言う。
10gでも20gでも、5gと比べて認知機能への効果は変わらない。
これは俺の感想じゃない。2023年の用量反応研究とメタアナリシスが明確に示している。
10g vs 20g vs プラセボを直接比較したRCT
Moriarty et al. 2023は、クレアチンの用量と認知機能の関係を直接検証したRCTだ。
研究デザイン
- 対象:健康な若年成人30名(男性11名、女性19名)
- 群分け:10g/日、20g/日、プラセボ
- 期間:6週間
- 評価:処理速度、エピソード記憶、注意力
fNIRS(近赤外分光法)で前頭前皮質の活性化も測定している。ガチのRCTだ。
結果
| 認知テスト | 10g群 | 20g群 | プラセボ群 | 有意差 |
|---|---|---|---|---|
| 処理速度 | 改善なし | 改善なし | - | なし |
| エピソード記憶 | 改善なし | 改善なし | - | なし |
| 注意力 | 改善なし | 改善なし | - | なし |
10gでも20gでも、認知機能は改善しなかった。
論文の結論はこうだ:
“Overall, six weeks of Cr supplementation at a moderate or high dose does not improve cognitive performance or change PFC activation in young adults.”
高用量のクレアチンは、健康な若年成人の認知機能を改善しない。
メタアナリシスも「用量は関係ない」と結論
Prokopidis et al. 2023は、クレアチンと記憶に関する8つのRCTをメタ解析した。
主な結果
| 項目 | 効果サイズ | 判定 |
|---|---|---|
| 記憶(全体) | SMD = 0.29 | 小さい効果 |
| 高齢者(66-76歳) | SMD = 0.88 | 中程度の効果 |
| 若年者(11-31歳) | SMD = 0.03 | ほぼゼロ |
用量の影響は?
用量(2.2-20g/日)は結果に影響しなかった。
“Creatine dose (≈ 2.2-20 g/d), duration of intervention (5 days to 24 weeks), sex, or geographical origin did not influence the findings.”
メタ回帰分析で明確に示されている。用量を増やしても、効果サイズは増えない。
これは筋力研究でも同じ結論が出ている。クレアチンモノハイドレートの詳細記事でも解説したが、クレアチンは「飽和」がポイントで、一度飽和したら追加で入れても意味がない。
誰に効いて、誰に効かないか
クレアチンの認知機能への効果は、対象者によって大きく異なる。
| 対象 | 効果サイズ | 解釈 |
|---|---|---|
| 高齢者(66-76歳) | SMD = 0.88 | 中程度の効果 |
| 若年者(11-31歳) | SMD = 0.03 | ほぼゼロ |
| 疾患患者 | 有意な効果 | 代謝ストレス下で有効 |
| 健康成人 | 非有意 | 余裕のある脳には不要 |
| 女性 | 処理速度SMD = -0.87 | 有意な改善 |
| 男性 | 非有意 | 不明 |
なぜ高齢者に効いて若年者に効かないのか
脳はエネルギーを大量に消費する。そのエネルギー供給にクレアチンが関わっている。
高齢者は加齢により脳のエネルギー代謝が低下している。だからクレアチン補給で改善の余地がある。
一方、若い健康な脳は既にエネルギー供給が十分。クレアチンを追加しても、改善の余地がない。
効果サイズ0.03は「誤差の範囲」だ。
睡眠不足時なら高用量が効く?
唯一、高用量クレアチンが認知機能に効果を示した研究がある。
Gordji-Nejad et al. 2024は、睡眠不足という代謝ストレス下での効果を検証した。
- 対象:健康成人15名、21時間の睡眠不足
- 用量:0.35g/kg(体重70kgなら約25g)の単回投与
- 結果:処理速度と短期記憶が改善
睡眠不足で脳のエネルギーが枯渇している状態では、高用量クレアチンが補填効果を発揮する。
ただしこれは「日常的な認知機能向上」ではなく「緊急時の保護効果」だ。徹夜明けの仕事やテストで使う、という限定的なシナリオ。
低用量でも脳クレアチンは上がる
興味深い研究がある。
Korovljev et al. 2025は、更年期女性を対象にクレアチンHCl(塩酸塩)の効果を検証した。
| 群 | 用量 | 脳クレアチン | 反応時間 |
|---|---|---|---|
| 中用量 | 1.5g/日 | +16.4% | 改善(p < 0.01) |
| プラセボ | - | +0.9% | 悪化 |
1.5g/日という低用量でも、脳クレアチンは16%上昇した。
「高用量が必要」という仮説に反する結果だ。
ただしクレアチンHClはモノハイドレートより吸収率が高いとされる形態なので、直接比較はできない。
俺の実体験
正直に言う。
俺は以前、「脳にも効くなら10gくらい摂ってもいいか」と思って、しばらく高用量を試したことがある。
体感としては、まったく違いがわからなかった。
筋トレの効果は変わらないし、集中力が上がった気もしない。ただクレアチンの消費が2倍になってコストが増えただけ。
今は5g/日に戻している。これがエビデンスに基づいた最適解だ。
高用量を勧める人の心理
「10g摂れ」と言う人の心理を推測すると、おそらくこうだ:
- 「多ければ多いほど効く」という素朴な信念
- 自分のプロトコルを正当化したい
- エビデンスを読んでいない
クレアチンの代謝を理解すれば、「飽和点以上は無駄」とわかる。筋肉のクレアチン貯蔵量には上限があり、それを超えた分は尿として排出される。
脳も同じだ。
結論:5g/日で十分
効果サイズで見た結論:
| 用量 | 筋力への効果 | 認知機能への効果 | コスト効率 |
|---|---|---|---|
| 3-5g/日 | 効果サイズA | SMD 0.29(条件付き) | ★★★★★ |
| 10g/日 | 差なし | 差なし | ★★☆☆☆ |
| 20g/日 | 差なし | 差なし | ★☆☆☆☆ |
5g/日でも10g/日でも、筋力にも認知機能にも差はない。
高用量は「コストの高い尿を作る」だけだ。
例外
以下の場合は高用量を検討する余地がある:
- 睡眠不足時の一時的な使用:徹夜明けなどで脳のエネルギーが枯渇している場合
- 高齢者:脳のエネルギー代謝が低下している可能性
ただしこれも「5g → 10g」ではなく、「5g継続 + 緊急時に追加」という形が現実的だろう。
どんな人におすすめか
クレアチンの認知機能効果を期待する場合
- 高齢者(60歳以上):効果サイズが大きい
- 女性:処理速度への効果が顕著
- 睡眠不足が多い人:保護効果として
期待しすぎないほうがいい人
- 若い健康な男性:効果サイズはほぼゼロ
- 既にクレアチンを摂っている人:高用量にしても差はない
俺の推奨
筋トレ民なら、既に5g/日のクレアチンを摂っているだろう。それを続ければいい。
「脳にも効くかも」というのは、あくまで「おまけ」だ。クレアチンの認知機能効果の詳細を参照してほしい。
認知機能を本気で改善したいなら、クレアチンより睡眠、運動、食事の最適化が先だ。効果サイズが段違い。
まとめ
- 用量(2.2-20g/日)と認知機能の効果サイズに相関はない
- 10g vs 5gを直接比較したRCTで、有意差なし
- 若い健康な成人の認知機能への効果サイズはほぼゼロ(SMD = 0.03)
- 高齢者や女性では効果がある可能性
- 5g/日で十分。高用量はコストの無駄
エビデンスに基づいた結論だ。
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