AMPKα2がアミノ酸不足を感知する仕組み、断食中のタンパク質合成を論文から読み解く
はじめに
2026年1月6日、Cell Metabolismに興味深い論文が掲載された。
Mao et al., 2026「AMPKα2 signals amino acid insufficiency to inhibit protein synthesis」
AMPKα2がアミノ酸センサーとして機能するという発見だ。
断食やタンパク質制限が認知機能を保護するメカニズムに、分子レベルの説明が加わった。BCAAサプリを飲むタイミングにも示唆を与える研究だ。
AMPKの「α1」と「α2」:機能の違いが判明
AMPKとは
AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)は、細胞のエネルギーセンサーとして知られている。
従来の理解では、AMPKはATP/AMP比を感知し、エネルギー不足時に活性化される。メトホルミンやベルベリンがAMPKを活性化することは、以前の記事でも紹介した。
α1とα2の違い
AMPKには2つの触媒サブユニット、α1とα2がある。これまで、両者の機能的な違いは不明だった。
今回の論文は、その違いを明らかにした:
| サブユニット | 役割 |
|---|---|
| AMPKα1 | エネルギーセンシング |
| AMPKα2 | アミノ酸センシング |
α2だけが、アミノ酸不足を感知してタンパク質合成を抑制する。
中国100万人コホートからの発見
アルツハイマー病患者の特徴
研究チームは、中国の100万人コホートからアルツハイマー病(AD)患者の血液サンプルを分析した。
AD患者で観察された特徴:
| 項目 | 変化 |
|---|---|
| アミノ酸レベル | 低い |
| タンパク質レベル | 高い(凝集体として) |
| AMPK p-T172リン酸化 | 低い |
これは興味深いパターンだ。アミノ酸が低いのに、タンパク質(おそらく病的凝集体)が高い。
マウス実験で検証
研究チームはマウスでこれを検証した:
| マウス | 結果 |
|---|---|
| α2欠損 | AD様の認知機能障害、上記の特徴を再現 |
| α1欠損 | 影響なし |
α2だけを失うと、AD様の病態が現れる。α1では起きない。
メカニズム:GCN2→AMPKα2経路
アミノ酸不足の感知
従来、AMPKはAMP(エネルギー代謝産物)によって活性化されると考えられていた。
今回の発見は違う。アミノ酸不足を感知するのは、AMPとは独立した経路だ。
アミノ酸不足
↓
GCN2(General Control Nonderepressible 2)活性化
↓
AMPKα2のT172を特異的にリン酸化
(※AMPや果糖1,6-ビスリン酸とは独立)
↓
タンパク質合成抑制
↓
病的タンパク質凝集の防止
GCN2とは
GCN2は、Gallinetti et al., 2013(Biochemical Journal)のレビューで詳しく解説されている。
非荷電tRNA(アミノ酸が載っていないtRNA)に直接結合することで、アミノ酸の「不在」を感知する。mTORがアミノ酸の「存在」を感知するのと対照的だ。
| 経路 | 感知対象 | 活性化条件 |
|---|---|---|
| GCN2 | アミノ酸の「不足」 | 非荷電tRNAに結合 |
| mTOR | アミノ酸の「存在」 | 特にロイシン |
α2-p-T172が失われると何が起きるか
タンパク質過剰合成
AMPKα2のT172リン酸化が低下すると、タンパク質合成のブレーキが外れる。
結果:
- タンパク質過剰合成
- AD病理タンパク質(アミロイドβ、タウ)の凝集
- 認知機能障害
これはAD患者で観察されたパターンと一致する。
予防できるか
研究チームはマウスで複数の介入を試した。以下がα2-p-T172依存的にAD様症状を予防した:
| 介入 | 結果 |
|---|---|
| メトホルミン | AD様症状予防 |
| AICAR | AD様症状予防 |
| BCAA制限 | AD様症状予防 |
| タンパク質制限 | AD様症状予防 |
注目すべきは、BCAA制限とタンパク質制限も効果があったこと。
断食との関連:なぜ認知機能を保護するのか
断食中に起きること
間欠的断食(IF)では、食事をしない時間帯にアミノ酸が低下する。
今回の発見に基づくと:
断食
↓
アミノ酸レベル低下
↓
GCN2活性化
↓
AMPKα2-p-T172上昇
↓
タンパク質合成抑制
↓
病的タンパク質凝集の防止
↓
認知機能保護
断食の認知機能保護効果に、分子メカニズムが見えてきた。
Bryan Johnsonのプロトコル
バイオハッカーのBryan Johnsonは「食事ウィンドウ」を5時間に制限している。19時間の断食は:
- AMPKα2経路を活性化
- オートファジーを促進
- 病的タンパク質のクリアランス
今回の論文は、この戦略の分子基盤を支持する。
BCAAサプリのタイミングを考え直す
断食中のBCAA摂取
この研究は、BCAAサプリのタイミングに示唆を与える。
断食中にBCAAを摂取すると:
- アミノ酸レベルが上昇
- GCN2-AMPKα2経路が不活性化
- 断食の効果が打ち消される可能性
私の考え
BCAAは筋タンパク質合成を促進する。トレーニング前後に摂取する人は多い。
しかし、認知機能保護の観点からは、「断食の窓を維持する」ことも重要かもしれない。
| タイミング | BCAAの影響 |
|---|---|
| 断食中 | AMPKα2経路を阻害(断食効果↓) |
| 食事ウィンドウ内 | 筋タンパク質合成促進 |
| トレーニング前後 | 筋タンパク質合成促進 |
断食のメリットと筋タンパク質合成のトレードオフを考える必要がある。
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AMPK活性化剤としてのメトホルミン・ベルベリン
メトホルミンの効果
今回の研究で、メトホルミンがα2-p-T172依存的にAD様症状を予防することが示された。
これは処方薬だが、以前の記事でも紹介したように、抗老化研究で注目されている。
ベルベリンは?
天然のAMPK活性化剤として、ベルベリンがある。
ただし、ベルベリンがα2特異的に作用するかは検証されていない。
AMPKを活性化するという点では共通しているが、α2-p-T172を上昇させるかどうかは別の問題だ。
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正直なエビデンス評価
確実に言えること
- AMPKα2(α1ではない)がアミノ酸不足を特異的に感知する
- GCN2がα2のT172をリン酸化する(AMPとは独立した経路)
- α2-p-T172の低下は、タンパク質過剰合成とAD様病理につながる(マウス)
- メトホルミン、タンパク質制限がα2依存的にAD様症状を予防する(マウス)
言えないこと
- ヒトでタンパク質制限が認知機能を保護するかは直接検証されていない
- ベルベリンがα2特異的に作用するかは不明
- 最適な断食時間やタンパク質制限量は確立されていない
- 断食中のBCAA摂取が有害かどうかは検証されていない
三島の結論
この研究の意義
断食やタンパク質制限の認知機能保護効果に、分子メカニズムが見えてきた。
AMPKα2がアミノ酸センサーとして機能し、タンパク質合成を制御している。これは「AMPKはエネルギーセンサー」という従来の理解を拡張するものだ。
私の実践への影響
正直に言えば、この研究を読んでBCAAの摂取タイミングを見直している。
以前は16:8の間欠的断食中でも、トレーニング前にBCAAを摂取していた。しかし、断食のメリット(AMPKα2経路活性化)を考えると、食事ウィンドウ内に限定した方がいいかもしれない。
ただし、これは推測だ。「断食中のBCAA摂取が認知機能に悪影響」という直接的なエビデンスはない。
推奨ではなく情報提供
私は「タンパク質制限をしろ」とは言わない。
ただ、この研究が示唆することは伝えておきたい:
- 断食中のアミノ酸不足には、意味がある
- BCAAを「いつでも飲んでいい」わけではないかもしれない
- メトホルミンの認知機能保護効果には、α2経路が関与している
エビデンスを読んで、自分で判断してほしい。
関連情報
今回引用した論文
- Mao Y et al., 2026. Cell Metabolism. PMID: 41061696
- Gallinetti J et al., 2013. Biochemical Journal. PMID: 23216249
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