αリポ酸の効果サイズ、進行性MS治療Phase 2 RCTで検証された結果

αリポ酸の効果サイズ、進行性MS治療Phase 2 RCTで検証された結果

αリポ酸(ALA)は「最強の抗酸化物質」として、サプリメント市場で人気が高い。

「脳を守る」「神経を保護する」「ミトコンドリアを活性化する」。こういった主張を聞いたことがある人も多いだろう。

2005年のパイロット研究で脳萎縮抑制が示唆されて以来、神経保護作用への期待は高まっていた。

だが、2026年発表のPhase 2 RCTが決定的な結果を出した。

効果サイズを検証しよう。

結論から言う

介入対象アウトカム効果サイズ評価
ALA 1200mg/日進行性MS歩行速度差なし(-0.08 ft/sec)★☆☆☆☆
ALA 1200mg/日進行性MS脳容積安定(だが臨床に反映されず)★★☆☆☆
ALA 経口糖尿病性神経障害症状スコア改善あり(用量依存的)★★★☆☆
ALA 静注糖尿病性神経障害神経伝導速度WMD 4.63 m/s★★★☆☆

進行性MSの臨床アウトカムには効果なし。糖尿病性神経障害には症状改善の可能性あり。

Phase 2 RCT: Spain et al. 2026

Spain et al. 2026のPhase 2 RCTを紹介する。これが現時点での決定版だ。

研究デザイン

  • 研究タイプ: 24ヶ月、二重盲検、プラセボ対照RCT
  • 参加者: 115名(ALA群54名、プラセボ群61名)
  • 対象: 進行性MS(一次進行性または二次進行性)
  • EDSS: 3.0-6.5(歩行は可能だが障害あり)
  • 介入: 1200mg/日 経口αリポ酸 vs プラセボ

参加者の特性

項目数値
年齢59.1歳(SD 8.5)
女性54.8%
罹病期間16.3年(SD 9.7)
EDSS中央値6.0(杖歩行レベル)
DMT併用55.7%

進行性MSの典型的な患者集団だ。

一次アウトカム: 歩行速度

Timed 25-Foot Walk(25フィート歩行時間)が一次アウトカム。

24ヶ月後の変化
αリポ酸-0.39 ft/sec
プラセボ-0.30 ft/sec
-0.08(95%CI: -0.33 to 0.17)

効果なし。むしろαリポ酸群の方が悪化が大きいが、統計的有意差はない。

二次アウトカム

アウトカム結果
運動機能プラセボと差なし
その他臨床指標プラセボと差なし
患者報告アウトカムプラセボと差なし

すべてのアウトカムで効果なし。

脳画像所見(興味深い)

指標αリポ酸プラセボ
全脳容積安定減少傾向
深部灰白質容積安定減少
T2病変容積増加安定

脳容積は安定した。だがT2病変容積は増加している。

そして最も重要なのは、脳容積の安定が臨床アウトカムに反映されていないことだ。

有害事象

事象αリポ酸プラセボ
試験中止率37%17%
蛋白尿多い少ない

αリポ酸群は試験中止率が2倍以上。新たに蛋白尿との関連も報告された。

研究者の結論

“LA did not slow decline in walking speed or have other clinical effects different from placebo.”

Class IIエビデンスとして、αリポ酸は進行性MSの歩行速度を改善しないと結論づけられた。

サロゲートマーカーの罠

この研究は、サロゲートマーカーの落とし穴を示す典型例だ。

脳容積が「安定」しても意味がない

脳容積(MRI上の数値)が安定していても:

  • 歩行速度は改善しなかった
  • 運動機能は改善しなかった
  • 患者の主観的QOLは改善しなかった

患者にとって意味のあるアウトカムは何一つ改善していない。

なぜこうなるのか

脳容積は「サロゲートマーカー」(代理指標)に過ぎない。

  • 脳容積安定 → 神経保護 → 機能改善、という因果の連鎖が成り立たなかった
  • T2病変容積はむしろ増加しており、実際に「保護」されているのかも疑問
  • 抗酸化作用が脳容積を維持しても、機能的な神経ネットワークの保護とは別

MRI画像が良くなっても、患者が良くならなければ意味がない。

パイロット研究は何を示していたか

今回の大規模RCTに先立ち、いくつかのパイロット研究があった。

Loy et al. 2018: 中程度の効果サイズ?

Loy et al. 2018の研究では:

  • 参加者: 21名(ALA群11名、プラセボ群10名)
  • 期間: 2年
  • TUG効果サイズ: g = 0.51(95%CI: -0.35 to 1.38)

中程度の効果サイズが示唆された。だが95%信頼区間が0を跨いでいる。

サンプルサイズが小さすぎて結論できない状態だった。この結果が、今回の大規模RCTの根拠となった。

そして大規模RCTで効果は消えた。これがサンプルサイズの重要性だ。

Yadav et al. 2005: バイオマーカーのみ

Yadav et al. 2005の初期パイロット研究では:

  • MMP-9: 血清レベルが低下
  • sICAM-1: 用量依存的に減少

バイオマーカーは確かに改善した。だが臨床アウトカムは測定されていなかった。

これが「αリポ酸は脳を守る」という期待の根拠になっていた。バイオマーカーの改善が、そのまま臨床的な効果を意味するわけではない。

糖尿病性神経障害ではどうか

αリポ酸が最も研究されている領域は、糖尿病性神経障害(DPN)だ。

経口ALA: 症状は改善、客観指標は改善しない

Hsieh et al. 2023のメタアナリシス(10 RCT、1,242名):

アウトカム効果
TSS(総症状スコア)改善(用量依存的)
NDS(神経障害スコア)改善
満足度スコア改善
振動知覚閾値改善なし
神経伝導速度改善なし

症状(痛み、しびれ、灼熱感)は改善する。だが神経伝導速度などの客観的指標は改善しない。

これをどう解釈するか:

  • 症状改善は患者にとって意味がある
  • だが「神経が回復した」とは言えない
  • 主観的な改善に限定される

静注ALA: より強い効果

Han et al. 2012のメタアナリシス(15 RCT):

指標加重平均差(WMD)95%CI
正中神経MNCV4.63 m/s3.58-5.67
正中神経SNCV3.17 m/s1.75-4.59
有効率OR4.032.73-5.94

静注では神経伝導速度が改善する。だが研究の質が低い(主に中国の研究)。

経口サプリでこの効果は再現されていない。

なぜMSには効かないのか

糖尿病性神経障害には一定の効果があり、MSには効かない。なぜか。

1. 血液脳関門の問題

末梢神経(DPN)と中枢神経(MS)では、薬物の到達性が違う。

経口αリポ酸がどこまでCNSに到達するかは不明だ。

2. 疾患の性質

進行性MSは治療抵抗性が高い。多くの薬剤がこの段階では効かない。

抗酸化作用だけでは、複雑な神経変性を止められない可能性がある。

3. 時期の問題

進行した段階では遅すぎるのかもしれない。

平均罹病期間16年、EDSS中央値6.0という集団では、神経損傷はかなり進んでいる。

実践的な推奨

神経保護目的で飲むべきか

俺の優先度は低い。

進行性MSへの効果サイズは確認されていない。脳容積が安定しても臨床アウトカムには反映されなかった。

ただし、脳容積の安定自体は意味のある所見だ。今後の研究で、より早期の介入や異なる用量で効果が出る可能性は残る。

糖尿病性神経障害には?

症状緩和目的なら試す価値あり。

痛み、しびれ、灼熱感などの症状は改善する可能性がある。ただし神経機能自体が回復するわけではない。

用量は600-1200mg/日が研究で使われている。

Doctor's Best, アルファリポ酸600、600mg、ベジカプセル180粒

糖尿病性神経障害の症状緩和目的で。進行性MSには効果なし。

iherb.com

(Amazonと楽天では、同じ商品が見つからない場合があります)

一般的な抗酸化目的には?

バイオマーカー(TAC、MMP-9など)は改善する。だがそれが臨床的に何を意味するかは不明。

抗酸化目的なら、効果サイズが確立された他の選択肢(ビタミンC、E、運動など)を優先すべきだ。

俺の結論

αリポ酸の「神経保護」効果は、RCTで否定された。

目的評価コメント
進行性MS★☆☆☆☆臨床効果未確認、優先度低い
糖尿病性神経障害(症状)★★★☆☆試す価値あり
糖尿病性神経障害(機能改善)★☆☆☆☆経口では効果限定的
一般的な抗酸化★★☆☆☆バイオマーカー改善あり

パイロット研究で「期待できそう」に見えたものが、大規模RCTで効果なしと判明する。これはサプリメント研究では珍しくない。

脳容積が安定しても、患者が良くならなければ意味がない。

サロゲートマーカーに惑わされず、臨床アウトカム(歩行速度、運動機能、QOL)を見ることが重要だ。

αリポ酸は「最強の抗酸化物質」として売られている。神経保護への効果は現時点では確認されていないが、糖尿病性神経障害の症状緩和や一般的な抗酸化目的には検討の余地がある。 目的によって評価が変わる成分だ。

まとめ

  • Phase 2 RCT(115名、24ヶ月): 進行性MSの歩行速度に効果なし
  • 脳容積: 安定したが、臨床アウトカムには反映されず
  • 有害事象: 試験中止率37%、蛋白尿との関連
  • 糖尿病性神経障害: 症状改善あり、だが神経伝導速度は改善せず
  • 結論: 神経保護目的なら優先度低い、症状緩和・抗酸化目的なら検討の価値あり

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竹内 翔

効果サイズ原理主義者。エビデンスあっても効果サイズ小さいなら優先度は下がると考える。プロテイン、クレアチン、EAAがメインだが、効果サイズを基準に幅広く評価。

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