ビタミンD、日本人の8割が不足。10年追跡研究が示す「静かな欠乏」
はじめに
「日本人の98%がビタミンD不足」
SNSやメディアでよく見かけるこの数字。センセーショナルだが、本当だろうか?
僕は論文原理主義者として、この「98%」という数字の一次情報を探してみた。結論から言うと、この数字の根拠となる論文は見つからなかった。
しかし、実際のエビデンスも十分に深刻だ。2025年に発表されたROAD研究によれば、日本人の76-82%がビタミンD不十分(30 ng/mL未満)以下という状態にある。
今回は、「98%」という数字の検証と、実際のエビデンスに基づく日本人のビタミンD状況を正直にレビューする。
「98%不足」は誇張の可能性
まず、「98%」という数字の検証から。
PubMedで「vitamin D Japan 98%」「vitamin D deficiency Japan prevalence」などで検索したが、98%という数字を裏付ける論文は見つからなかった。
実際のデータ(ROAD研究)
2025年にArchives of Osteoporosis誌に掲載されたROAD研究は、日本人一般集団を対象とした10年間の追跡調査だ。
- 対象: 日本人一般集団(2005-2007年に1,683人、2015-2016年に1,906人)
- 定義: 欠乏は20 ng/mL未満、不十分は20-30 ng/mL、十分は30 ng/mL以上
結果は以下の通り。
| 時期 | 欠乏(20未満) | 不十分(20-30) | 合計(30未満) | 平均値 |
|---|---|---|---|---|
| 2005-2007年 | 29.5% | 52.9% | 82.4% | 23.3 ng/mL |
| 2015-2016年 | 21.6% | 54.8% | 76.4% | 25.1 ng/mL |
つまり、実際は76-82%が不十分以下であり、「98%」という数字は誇張の可能性が高い。
ただし、76-82%という数字も十分に深刻だ。約8割の日本人が、骨の健康に必要とされるビタミンD濃度(30 ng/mL以上)に達していない。
若い女性は特に深刻
ROAD研究は中高年が中心だが、若い女性を対象とした研究はさらに深刻な結果を示している。
女子大学生の調査
2001年にNakamura et al.が発表した研究では、日本人女子大学生77人(19-24歳)を対象に血清25(OH)D濃度を測定した。
- 平均25(OH)D: 34.2 nmol/L = 約14 ng/mL
- 重度欠乏(12 ng/mL未満): 40.3%
平均14 ng/mLというのは、欠乏の基準(20 ng/mL)を大きく下回る値だ。
なぜ若い女性がこれほど低いのか。考えられる原因は以下の通り。
- 日焼け止めの使用: 紫外線を徹底的にブロックするとビタミンD合成が阻害される
- 屋内生活: デスクワーク中心で日光を浴びる機会が少ない
- 魚の摂取量減少: 若い世代は魚を食べる頻度が低い
推奨摂取量では不十分
2018年のOhta et al.の研究では、日本人若年女性296人を対象に、血清25(OH)D濃度を20 ng/mL以上に維持するために必要なビタミンD摂取量を算出した。
結論は以下の通り。
- 必要量: 11.6 µg/日(464 IU)以上
- 日本の推奨摂取量: 5.5 µg/日(220 IU)
つまり、日本の食事摂取基準の推奨量では、約半分しか摂れていないことになる。
サプリメントの効果:何に効いて、何に効かないか
ビタミンD不足は深刻だが、サプリで補えば万事解決、というわけではない。エビデンスを正確に見ていこう。
効果があるもの
1. 全死亡リスクの低下
2022年のアンブレラレビューでは、観察研究、RCT、メンデルランダム化研究を統合して分析した。
結論として、低ビタミンD濃度は全死亡、アルツハイマー病、高血圧、統合失調症、2型糖尿病のリスク上昇と関連し、サプリメントは全死亡リスクを低下させることが示された。
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2. がん死亡リスクの低下(毎日摂取の場合)
2023年のIPDメタアナリシスは、14のRCT(104,727人、2015件のがん死亡)を分析した。
重要な発見は以下の通り。
- 全体: がん死亡6%低下(RR 0.94, 95%CI 0.86-1.02)→ 統計的有意差なし
- 毎日摂取群のみ: がん死亡12%低下(RR 0.88, 95%CI 0.78-0.98)→ 有意
- ボーラス投与群: 効果なし(RR 1.07)
ここが重要だ。週1回の大量投与(ボーラス)では効果がなく、毎日の摂取でないと効果が出ない。
70歳以上で毎日摂取を継続した人は、がん死亡リスクが17%低下したというサブ解析もある。
効果が限定的なもの
急性呼吸器感染症の予防
「ビタミンDで風邪予防」という話をよく聞くが、2025年に発表された最新のメタアナリシスでは、統計的有意差が消えた。
- 46のRCT、61,589人を分析
- OR 0.94(95%CI 0.88-1.00, P=0.057)
以前の2021年のメタアナリシスでは有意だった(OR 0.92, 0.86-0.99)が、大規模試験が追加された結果、信頼区間が1.00を含むようになった。
つまり、「風邪予防にビタミンDが効く」とは現時点では言えない状況だ。
特定疾患への効果
アンブレラレビューでは、観察研究とメンデルランダム化研究で「低ビタミンDと疾患リスク」の関連が示されても、RCTでサプリの効果が確認されなかった疾患がある。
- アルツハイマー病
- 高血圧
- 統合失調症
- 2型糖尿病
これらは「ビタミンDを補えば予防できる」という単純な話ではないようだ。
毎日摂取がなぜ重要なのか
がん死亡リスク低下の研究で、ボーラス投与(週1回や月1回の大量投与)では効果がなく、毎日の摂取でのみ効果が確認されたという結果は興味深い。
考えられるメカニズムとして、以下が挙げられている。
- 血中濃度の安定性: 毎日摂取の方が血中濃度が安定する
- 遺伝子発現への影響: ビタミンDは転写因子として働くため、持続的な濃度維持が重要
- 免疫調節作用: 急激な濃度変動より、持続的な濃度維持の方が免疫系に良い影響を与える可能性
僕自身も、週1回5万IUではなく、毎日5,000IU(125µg)を摂取するようにしている。
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ビタミンD3とK2の組み合わせ
ビタミンDを高用量で摂取する場合、ビタミンK2との併用が推奨される。
その理由は以下の通り。
- カルシウム代謝の調整: ビタミンDはカルシウム吸収を促進するが、K2がないとカルシウムが血管に沈着するリスクがある
- 骨へのカルシウム誘導: K2は骨へのカルシウム取り込みを促進する
- 相乗効果: D3とK2の組み合わせで骨密度改善効果が高まるという研究がある
ただし、これについては「絶対必須」というほどのエビデンスはまだない。高用量(5,000 IU以上)を長期摂取する場合は、K2との併用を検討する価値があるだろう。
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僕の摂取プロトコル
僕自身のビタミンD摂取プロトコルを公開する。
用量
- 基本: 5,000 IU/日(125µg)
- 冬季(11-3月): 変更なし(通年同量)
摂取タイミング
- 朝食時(脂溶性ビタミンなので食事と一緒に)
使用製品
- Life Extension ビタミンD3 5,000 IU(毎日用)
- Thorne ビタミンD/K2(K2を追加したいとき)
モニタリング
- 年1回の血液検査で25(OH)D濃度を確認
- 目標: 40-60 ng/mL
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結論:エビデンスに基づく正直な評価
ビタミンDについて、エビデンスベースで言えることをまとめる。
確実に言えること
- 日本人の76-82%がビタミンD不十分(30 ng/mL未満)
- 若い女性は特に深刻、平均14 ng/mL程度
- 日本の推奨摂取量(5.5 µg/日)は不十分、11.6 µg/日以上必要
- 毎日のビタミンD3摂取はがん死亡を12%低下させる
- 全死亡リスク低下のエビデンスあり
言えないこと
- 「98%不足」は根拠不明の数字
- 風邪予防効果は最新メタアナリシスで「ほぼ有意」止まり
- 特定疾患(アルツハイマー、高血圧など)への予防効果はRCTで確認されず
- ボーラス投与では効果なし、毎日摂取が必要
批判的に見るべき点
- 効果サイズは「12%がん死亡低下」など、劇的ではない
- 血中濃度を上げても、必ずしもアウトカムが改善するわけではない
- 高用量摂取の長期安全性データはまだ限定的
こんな人に向いている・向いていない
向いている人
- 日光を浴びる機会が少ない人(屋内仕事、日焼け止め常用)
- 魚をあまり食べない人
- 血液検査で25(OH)Dが30 ng/mL未満の人
- 毎日継続して摂取できる人
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向いていない人
- すでに十分な日光を浴びている人
- 血液検査で25(OH)Dが40 ng/mL以上の人
- 週1回大量投与で済ませたい人(効果なし)
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まとめ
「日本人の98%がビタミンD不足」という数字は、一次情報を確認できなかった。しかし、実際のエビデンスでも76-82%が不十分以下という状態であり、深刻な問題であることに変わりはない。
特に若い女性は平均14 ng/mLという重度の欠乏状態にある。日焼け止めの使用や屋内生活の増加が影響しているのだろう。
ビタミンDサプリの効果については、毎日摂取で全死亡・がん死亡リスクが低下するというエビデンスがある一方、風邪予防効果は最新のメタアナリシスで統計的有意差がなくなった。
僕自身は、毎日5,000 IUを摂取し、年1回の血液検査でモニタリングしている。効果サイズは劇的ではないが、リスクも低い。日光を浴びる機会が少ない現代人にとって、ビタミンDは「エビデンスがあるサプリ」の一つだと考えている。
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