外因性ケトン(D-BHB)の効果サイズ、メタアナリシスで検証

外因性ケトン(D-BHB)の効果サイズ、メタアナリシスで検証

外因性ケトン(βHB:β-ヒドロキシ酪酸)は、バイオハッカー界隈で注目されているサプリだ。

ケトン食をしなくても、サプリで血中ケトン濃度を上げられる。「脂肪燃焼促進」「持久力向上」「認知機能改善」などの主張がある。

高価なケトンエステルを飲んでいるアスリートもいる。

だが、効果サイズはどうか?メタアナリシスとシステマティックレビューで検証した。

結論から言う

介入アウトカム効果サイズ評価
ケトンサプリ(全体)運動パフォーマンスg = -0.05★☆☆☆☆
ケトンエステル運動パフォーマンスg = -0.07★☆☆☆☆
ケトンソルト運動パフォーマンスg = -0.02★☆☆☆☆
運動後ケトン回復・適応示唆あり★★☆☆☆

効果サイズはほぼゼロ。急性パフォーマンス向上には効かない。

メタアナリシス: Valenzuela et al. 2020

Valenzuela et al. 2020のメタアナリシスを紹介する。

研究デザイン

  • 対象: 急性ケトンサプリ摂取のRCT
  • 研究数: 13研究
  • 比較: コントロール(ケトンなし)

結果

アウトカム効果サイズ(Hedges g)95%CIp値
運動パフォーマンス(全体)-0.05-0.30 to 0.200.68
持久力タイムトライアル-0.04-0.35 to 0.280.82
ケトンエステル-0.07-0.38 to 0.240.66
ケトンソルト-0.02-0.45 to 0.410.93

副次アウトカム

すべて一貫した効果なし:

  • 血漿乳酸、血糖値
  • RER(呼吸交換比)、酸素摂取量
  • 心拍数
  • RPE(主観的運動強度)

研究者の結論:

“The present findings suggest that ketone supplementation exerts no clear influence on exercise performance (from sprints to events lasting up to ~50 min) or metabolic, respiratory, cardiovascular, or perceptual responses to exercise.”

スプリントから50分程度の持久運動まで、パフォーマンス向上効果なし。

システマティックレビュー①: Margolis & O’Fallon 2020

Margolis & O’Fallon 2020の研究。

研究デザイン

  • 研究数: 10研究(112名)
  • アウトカム数: 16(下肢パワー8、持久力8)

結果

効果の方向件数
ポジティブ3
ニュートラル10
ネガティブ3

16件中10件がニュートラル(効果なし)。ポジティブとネガティブが同数。

異質性の問題

研究間の異質性が非常に高い(I² = 83-93%)。

“Heterogeneity across studies makes it difficult to conclude any benefit or detriment to consuming ketone supplements on physical performance.”

研究によって結果がバラバラで、明確な結論を出すのが難しい状況だ。

システマティックレビュー②: Sun et al. 2024

Sun et al. 2024は、持久系ランナーに焦点を当てた研究。

研究デザイン

  • 対象: 持久系ランナー132名
  • 研究数: 12(ケトジェニック食5 + ケトンサプリ7)

結果

VO2max、レースタイム、疲労困憊時間、RPE - いずれもコントロールに対して有意な効果なし。

“This review did not identify any significant advantages or disadvantages of ketogenic diets or ketone supplements for the aerobic performance of endurance runners.”

持久系ランナーでも、ケトンサプリの効果は確認されなかった。

なぜ理論と実践が乖離するのか

ケトン体には理論的な利点がある:

  1. 効率的な燃料: グルコースより少ない酸素でATPを産生
  2. グリコーゲン節約効果: 糖質を温存しながら脂肪由来のエネルギーを使う
  3. HDAC阻害: エピジェネティックな効果で適応を促進

だが、実際のパフォーマンスには繋がっていない。考えられる理由:

1. 消化器症状

ケトンサプリ、特にケトンエステルは非常にまずい。吐き気、消化器不快感を訴える被験者も多い。

これがパフォーマンスに悪影響を与えている可能性がある。

2. 代謝適応の不足

ケトン体を効率的に利用するには、代謝適応が必要だ。急性摂取では、体がケトンを十分に活用できない。

3. 最適な用量・タイミングが不明

研究によって用量、タイミング、形態(エステル vs ソルト)がバラバラ。最適なプロトコルが確立されていない。

運動後ケトン摂取の可能性

Robberechts & Poffé 2024のレビューは、別の視点を提示している。

“The real potential of ketone supplementation may rather be in their ability to enhance postexercise recovery and training adaptations.”

急性パフォーマンスではなく、運動後の回復に可能性があるかもしれない。

報告されている効果

  • オーバートレーニング症状の軽減
  • 睡眠の改善
  • 筋肉の同化シグナル
  • EPO(エリスロポエチン)レベルの上昇
  • 骨格筋の血管新生

注意点

これらは「示唆されている」段階であり、確立されたエビデンスではない

運動後摂取の効果サイズを示すメタアナリシスはまだない。期待はできるが、推奨するには時期尚早だ。

コスト問題

外因性ケトンの最大の問題はコストだ。

製品タイプ1回分の価格(概算)
ケトンソルト500-1,000円
ケトンエステル3,000-5,000円

ケトンエステルは特に高価だ。1回で数千円、毎日摂取すると月10万円以上になる。

俺の優先度は最も低い。ただし、回復目的で試したい人には選択肢として残る。

俺の結論

急性パフォーマンス目的

俺の優先度は最も低い。 メタアナリシスでg = -0.05。統計的にも実践的にも意味のある効果は現時点で確認されていない。

ただし、研究の異質性が高い(I² = 83-93%)ので、個人によっては反応が異なる可能性はある。

回復目的

エビデンス不足だが、可能性はある。

運動後摂取には可能性が示唆されている。オーバートレーニング対策や睡眠改善を求める人は、今後のデータに注目だ。

コスパ

コスパは良くない。 同じ金額でプロテインとクレアチンを相当量買える。

ただし、資金に余裕があり最先端を試したい人にとっては、自己実験の選択肢にはなる。

理論 vs 実践

ケトンの代謝理論は興味深い。だが、理論と実践は別物だ。

効果サイズ原理主義者として、俺は実際のRCTデータを見る。現時点のデータは「急性パフォーマンスには効果なし」と言っている。回復への効果は今後のデータ次第だ。

誰に向いているか

目的評価コメント
急性パフォーマンス向上★☆☆☆☆効果サイズほぼゼロ
運動後の回復★★☆☆☆可能性あり、エビデンス不足
オーバートレーニング対策★★☆☆☆示唆あり、今後のデータ次第
自己実験・最先端追求★★★☆☆資金に余裕があれば試す価値

優先度が低い人

  • コスパ重視の人: 同じ金額でプロテイン・クレアチンの方が効果サイズが確立されている
  • 確実な効果を求める人: 現時点のエビデンスでは効果が不明確

試す価値がある人

  • 研究目的で自己実験したい人: 個人差が大きいので、自分の反応を確かめたい人
  • 資金に余裕があり、最先端を試したい人: 回復への効果は今後のデータ次第
  • オーバートレーニング症状がある人: 回復促進の可能性を探りたい人

興味がある人向けに、代表的な製品を紹介する。

Nutricost, ナトリウムBHB(β-ヒドロキシ酪酸)、goBHB®(ゴーBHB)、プレーン、250g(8.9オンス)

ケトンソルト。急性パフォーマンスへの効果は限定的だが、ケトーシス状態の維持や回復目的で試したい人向け。

iherb.com

(Amazonと楽天では、同じ商品が見つからない場合があります)

まとめ

  • メタアナリシス(13 RCT): 運動パフォーマンスへの効果サイズ g = -0.05(ほぼゼロ)
  • ケトンエステル: g = -0.07(効果なし)
  • ケトンソルト: g = -0.02(効果なし)
  • 持久系ランナー: VO2max、レースタイムに有意差なし
  • 運動後摂取: 回復への可能性あり、だがエビデンス不足
  • コスト: ケトンエステルは1回3,000-5,000円。コスパは良くない
  • 結論: 急性パフォーマンスへの効果は限定的。回復目的なら可能性あり、今後のデータ次第

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竹内 翔

効果サイズ原理主義者。エビデンスあっても効果サイズ小さいなら優先度は下がると考える。プロテイン、クレアチン、EAAがメインだが、効果サイズを基準に幅広く評価。

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