フィッシュオイル減量論の真実、高用量サプリで心房細動リスク24%増加
「フィッシュオイルは体に良い」——これは長年の常識だった。
しかし、2024年にProgress in Cardiovascular Diseases誌に発表されたレビュー(PMID: 39617283)は、この常識を揺るがす内容だった。8つのRCTメタアナリシスで、EPA/DHAサプリメントが心房細動(AF)リスクを24%増加させると報告されたのだ。
しかも、用量依存的だという。では、我々はフィッシュオイルを止めるべきなのか。ALAに切り替えるべきなのか。
論文から検証する。
フィッシュオイル批判の根拠
RCTメタアナリシス:AFリスク24%増加
O’Keefeらのレビュー(PMID: 39617283)は、8つのRCT(83,112人)と17の前向きコホート研究(54,799人)を解析した。
RCTの結果:
EPA/DHAサプリメントでAFリスク24%増加(RR 1.24, 95%CI 1.11-1.38, p=0.0002) 絶対リスク: 4.0% vs 3.3%
用量依存性:
- ~1000mg/日: AFリスク~12%増加
- 1800-4000mg/日: AFリスク~50%増加
つまり、高用量になるほどリスクは高まる。
メカニズム:迷走神経の過剰活性化
なぜ高用量でリスクが増えるのか。
著者らは「迷走神経(vagal tone)の過剰活性化」を仮説として提唱している。
- オメガ3は用量依存的に迷走神経緊張を高める
- 低レベルの迷走神経刺激 → AFリスク低下(保護的)
- 高レベルの迷走神経刺激 → AFリスク増加(有害)
この「両刃の剣」が、高用量サプリメントの問題点だという。
安全性メタアナリシス(PMID: 36103100)
Cardiovascular Drugs and Therapy誌のメタアナリシス(15のRCT)も同様の結論だ。
有効性(オメガ3で減少):
- 主要心血管イベント: RR 0.95(5%減少)
- 心筋梗塞: RR 0.90(10%減少)
- 心血管死: RR 0.94(6%減少)
リスク(オメガ3で増加):
- 心房細動: RR 1.25(25%増加)
心血管イベントは減るが、AFリスクは増える——このトレードオフを理解する必要がある。
しかし、食事由来は保護的
ここで矛盾が生じる。
同じO’Keefeらのレビューで、観察研究は逆の結果を示している。
観察研究:オメガ3が高いほどAFリスク低下
- 血中EPA/DHA濃度が高い人はAFリスクが低い
- 食事からのオメガ3摂取量が多い人もAFリスクが低い
- 最大リスク低下(12%)は~650mg/日の食事性EPA+DHA
UK Biobank研究(PMID: 41368832)
2025年のJ Am Heart Assoc誌に発表されたUK Biobank研究(261,108人、追跡期間12.7年)はさらに興味深い。
結果:
- 血漿オメガ3濃度: AFリスクと逆相関(HR 0.89, 95%CI 0.86-0.93)
- フィッシュオイルサプリ使用: AFリスクと関連なし(HR 1.00, 95%CI 0.97-1.02)
適切な年齢調整をすると、サプリ使用とAFリスクの関連は消失した。
なぜ矛盾するのか
この矛盾をどう解釈するか。
- 用量の問題: 食事からの摂取は~650mg/日程度。RCTの高用量(2-4g/日)とは異なる
- 形態の問題: 魚にはオメガ3以外の栄養素も含まれる
- 統計調整の問題: 観察研究と介入研究では交絡因子の扱いが異なる
私の解釈は単純だ。用量がすべて。
低〜中用量(~650mg/日)は保護的、高用量(>1g/日)はリスク増加。この非線形の関係が、矛盾した結果を生んでいる。
ALAは代替になるか?
では、植物性オメガ3である**ALA(α-リノレン酸)**はどうか。
亜麻仁油、チアシード、クルミなどに豊富に含まれるALAは、「ヴィーガン向けオメガ3」として注目されている。
ALAからEPA/DHAへの変換効率
問題は変換効率だ。
ALA → EPA変換効率: 約5-10% ALA → DHA変換効率: 0.5%未満
2024年のInt J Mol Sci誌レビュー(PMID: 38732139)によると、ALAからDHAへの変換は極めて非効率だ。
つまり、ALAをいくら摂っても、DHAはほとんど増えない。
ALAの心血管保護効果:デンマークコホートの結論
デンマークの大規模コホート研究(PMID: 36592188、53,909人、13.5年追跡)は明確な結論を出している。
結果:
- 海洋性オメガ3(EPA+DHA): ASCVDリスク低下と関連
- 植物性ALA: ASCVDリスクと関連なし
「海洋性n-3 PUFAは動脈硬化性心血管疾患リスク低下と関連。一方、植物性ALAでは関連が認められなかった」
ALAはEPA/DHAの代替にはならない——これが現時点でのエビデンスだ。
ALAの独自効果はある
ただし、ALAに効果がないわけではない。
Advances in Nutrition誌のメタアナリシス(PMID: 37778442、19のRCT)によると:
ALAで有意に改善:
- CRP(炎症マーカー): 低下
- TNF-α(炎症性サイトカイン): 低下
- トリグリセリド: 低下
- 収縮期血圧: 低下
ALAで悪化:
- LDLコレステロール: 上昇
ALAは抗炎症作用を持つが、LDLを上昇させる可能性がある。また、EPA/DHAへの変換ではなく、オキシリピン経由の独自経路で効果を発揮している可能性が示唆されている。
正直なエビデンス評価
確実に言えること
- 高用量フィッシュオイルサプリ(>1g/日)はAFリスクを24%増加させる(8 RCTメタアナリシス)
- 用量依存的: 4g/日で~50%増加
- 血中オメガ3濃度が高い人はAFリスクが低い(UK Biobank)
- 食事由来のオメガ3(~650mg/日)は保護的(観察研究)
- ALAからDHAへの変換効率は0.5%未満
- ALAは心血管疾患リスク低下と関連しない(デンマークコホート)
言えないこと
- 低〜中用量(1g/日未満)のフィッシュオイルがAFリスクを増やすか(エビデンス限定的)
- ALAがEPA/DHAと同等の心血管保護効果を持つか(持たない可能性が高い)
- すべての人がフィッシュオイルを避けるべきか(用量次第)
私の結論
私の現在のスタンスは以下の通りだ。
1. 高用量サプリは避ける
4g/日のような高用量EPA/DHAは、AFリスク増加のエビデンスが明確。特にAF既往がある人は要注意。
2. 食事からの摂取を優先
週2-3回の魚摂取(~650mg/日のEPA+DHA相当)は、観察研究で保護的。サプリより魚を食べる方が理にかなっている。
3. サプリを使うなら低〜中用量
どうしてもサプリを使うなら、1日1g以下に抑える。これなら観察研究の「保護的」な範囲に収まる。
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4. ALAはEPA/DHAの代替にはならない
亜麻仁油はALAが豊富だが、DHAへの変換は0.5%未満。心血管保護効果を期待するならEPA/DHAを直接摂取すべき。
ただし、ALAには独自の抗炎症効果があるため、補完的に使うのはアリだ。
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5. AFリスクがある人は慎重に
心房細動の既往や家族歴がある人は、フィッシュオイルサプリを使う前に医師に相談すべきだ。
参考文献
- O’Keefe EL et al. (2024) Omega-3 and Risk of atrial fibrillation: Vagally-mediated double-edged sword. Prog Cardiovasc Dis. PMID: 39617283
- O’Keefe E et al. (2025) Associations Between Plasma Omega-3 and Fish Oil Use With Risk of Atrial Fibrillation in the UK Biobank. J Am Heart Assoc. PMID: 41368832
- Yan J et al. (2022) Efficacy and Safety of Omega-3 Fatty Acids in the Prevention of Cardiovascular Disease. Cardiovasc Drugs Ther. PMID: 36103100
- Yin S et al. (2023) Effect of Alpha-Linolenic Acid Supplementation on Cardiovascular Disease Risk Profile. Adv Nutr. PMID: 37778442
- Bork CS et al. (2023) Intake of marine and plant-derived n-3 fatty acids and development of atherosclerotic cardiovascular disease. Eur J Nutr. PMID: 36592188
- Takić M et al. (2024) Current Insights into the Effects of Dietary α-Linolenic Acid. Int J Mol Sci. PMID: 38732139

