メトホルミンからベルベリンへ、長寿研究者が切り替えた理由を論文から解説
「メトホルミンは長寿薬」——バイオハッカー界隈でよく聞く話だ。
しかし、2019年のMASTERS試験以降、この評価は大きく変わった。メトホルミンが運動適応を阻害するというRCTが複数発表され、運動を重視する長寿研究者たちがメトホルミンからベルベリンへ切り替えている。
なぜか。論文から検証する。
メトホルミンとは何か
メトホルミンは2型糖尿病の第一選択薬だ。1950年代から使われ、安全性プロファイルは極めて良好。
主なメカニズムはAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)の活性化だ。
AMPKは細胞のエネルギーセンサーであり、活性化されると:
- 糖の取り込み促進
- 脂肪酸酸化促進
- mTOR抑制(オートファジー促進)
- ミトコンドリア生合成促進
これらは「カロリー制限模倣」と呼ばれ、抗老化効果が期待されてきた。
長寿薬としての期待
メトホルミンの抗老化効果への期待は、疫学研究から始まった。
イギリスの大規模観察研究(2014年)では、メトホルミンを服用する糖尿病患者が、非糖尿病者よりも長生きだったという驚くべき結果が報告された。
これを受けて、**TAMEトライアル(Targeting Aging with Metformin)**という大規模臨床試験が計画された。
TAMEトライアル(PMID: 32333835)
- デザイン: 65-79歳、3000名、6年間
- 目的: メトホルミンが老化関連疾患の発症を遅らせるか検証
- 状況: 資金調達完了、開始待ち
Cell Metabolism誌のレビュー(PMID: 32333835)では、メトホルミンが老化の特徴(hallmarks of aging)を軽減する可能性が述べられている。
しかし——問題はここからだ。
MASTERS試験:メトホルミンが筋肥大を阻害する
2019年、Aging Cell誌に発表されたMASTERS試験(PMID: 31557380)は、長寿コミュニティに衝撃を与えた。
試験デザイン
- 対象: 65歳以上の高齢者
- 介入: 14週間の筋力トレーニング + メトホルミン(1700mg/日) vs プラセボ
- 主要アウトカム: 筋肉量、筋力
主要結果
「メトホルミンは高齢者の筋力トレーニングに対する筋肥大適応を鈍化させる」
プラセボ群では筋肉量が有意に増加したが、メトホルミン群では増加が抑制された。
なぜか。
研究者らは、メトホルミンによるAMPK活性化が、運動によるmTOR活性化と競合した可能性を示唆している。mTORはタンパク質合成に必須であり、これが抑制されると筋肉は成長しにくくなる。
2025年研究:血管インスリン感受性も阻害される
MASTERS試験だけではなかった。
2025年にJournal of Clinical Endocrinology and Metabolismに発表された研究(PMID: 41160096)は、さらに別の問題を示した。
主要結果
「メトホルミンは運動トレーニングによる血管インスリン感受性の改善を鈍化させる」
また、**VO2max(最大酸素摂取量)**の改善もメトホルミン群で抑制される傾向が見られた。
批判的レビュー:メトホルミンは本当に長寿薬か
Frontiers in Endocrinology誌の批判的レビュー(PMID: 34421827)は、メトホルミン=長寿薬という神話に疑問を呈している。
主要な批判点
- 動物実験との乖離: マウスでの寿命延長効果はヒトで再現されていない
- 運動適応への悪影響: 複数のRCTで証明済み
- 健康な高齢者での効果不明: 既存データは糖尿病患者が中心
- 代替メカニズム: 腸内細菌への影響が主要メカニズムかもしれない
結論
「健康なヒトでのメトホルミンの抗老化効果は確立されていない。TAMEトライアルの結果を待つべき」
ベルベリン:天然のAMPK活性化剤
ここで登場するのがベルベリンだ。
ベルベリンは黄連(オウレン)、黄柏(オウバク)などに含まれる天然アルカロイド。漢方薬として数千年の歴史がある。
興味深いことに、ベルベリンもAMPKを活性化する。メトホルミンと同様のメカニズムで血糖コントロールに作用する。
ベルベリン vs メトホルミン:直接比較RCT(PMID: 18442638)
2008年のMetabolism誌に発表されたRCTは、36名の2型糖尿病患者でベルベリンとメトホルミンを直接比較した。
結果:
- HbA1c: ベルベリン群 9.5% → 7.5%(p < 0.01)、メトホルミン群と同等
- 空腹時血糖: 両群で有意に低下
- トリグリセリド: ベルベリン群で有意に低下(メトホルミン群より優位)
- 総コレステロール: ベルベリン群で低下
結論:
「ベルベリンは2型糖尿病の血糖コントロールにおいてメトホルミンと同等の効果を示し、脂質改善効果はより優れている」
なぜ長寿研究者がベルベリンに切り替えるのか
ロジックは単純だ。
メトホルミンの問題点(まとめ)
- 筋肥大を阻害する(MASTERS試験)
- 有酸素能力の向上を阻害する
- 血管インスリン感受性の改善を阻害する
- 健康な人での長寿効果は未確立
運動との矛盾
長寿研究の現在のコンセンサスは、「運動が最強の抗老化介入」だ。
Peter Attiaは著書で、筋力トレーニングと有酸素運動の重要性を繰り返し強調している。Andrew Hubermanも同様だ。
しかし、メトホルミンはその運動の効果を打ち消す。
本末転倒ではないか。
ベルベリンのメリット
- 血糖・脂質への効果はメトホルミンと同等(RCTで証明)
- 天然物で処方箋不要(入手しやすい)
- 運動適応への影響は未検証(メトホルミンのような大規模RCTがない)
最後の点は「エビデンスがない」とも言えるが、少なくとも阻害が証明されているわけではない。
正直なエビデンス評価
確実に言えること
- メトホルミンが運動適応を阻害する(複数のRCT)
- ベルベリンは血糖・脂質コントロールでメトホルミンと同等(RCT)
- ベルベリンはAMPKを活性化する(前臨床研究)
- メトホルミンの長寿効果はヒトで未確立(TAME進行中)
言えないこと
- ベルベリンが運動適応を阻害しないか(未検証)
- ベルベリンに抗老化効果があるか(ヒトでのRCTなし)
- ベルベリンがメトホルミンより「優れている」か(長期比較データなし)
- 健康な人がどちらかを飲むべきか(両者ともエビデンス不足)
理論的な懸念
ベルベリンもAMPKを活性化する。
つまり、理論的には運動適応を阻害する可能性がある。メトホルミンで見られた問題がベルベリンでも起こり得る。
ただし、これは検証されていない。
私の見解
私は現在、運動する日は何も摂らないという選択をしている。
理由は明確だ。
- 運動の効果を最大化したい: メトホルミンが阻害することが証明された
- ベルベリンも同様のリスクがある可能性: AMPKを活性化する以上
- 長寿効果は両者とも未確立: 健康な人が飲む根拠が弱い
もし運動しない日にAMPK活性化を狙うなら、ベルベリンは合理的選択だ。処方箋不要で、脂質改善効果はメトホルミンより優れる可能性がある。
ただし、毎日飲むのは避けている。
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摂取の注意点
- 消化器症状: 胃腸障害(便秘、下痢、腹痛)が最も多い副作用
- 薬物相互作用: CYP3A4阻害作用があり、一部の薬との相互作用に注意
- 低血糖リスク: 糖尿病治療薬と併用時は医師に相談
- 運動タイミング: 理論的には運動の2-3時間前は避けるのが無難
参考文献
- Yin J et al. (2008) Efficacy of berberine in patients with type 2 diabetes mellitus. Metabolism. PMID: 18442638
- Walton RG et al. (2019) Metformin blunts muscle hypertrophy in response to progressive resistance exercise training in older adults. Aging Cell. PMID: 31557380
- Malin SK et al. (2025) Metformin Blunts Improvements in Vascular Insulin Sensitivity With Exercise Training. JCEM. PMID: 41160096
- Kulkarni AS et al. (2020) Benefits of Metformin in Attenuating the Hallmarks of Aging. Cell Metabolism. PMID: 32333835
- Mohammed I et al. (2021) A Critical Review of the Evidence That Metformin Is a Putative Anti-Aging Drug. Front Endocrinol. PMID: 34421827

