タンパク質は1.6g/kgで十分?筋肥大への追加効果を効果サイズで検証する
「筋肥大には体重1kgあたり1.6gで十分」
この数字は有名だ。
そして半分は正しい。
でも、
1.6g/kgを1gでも超えたら全部ムダ
みたいな読み方をすると、かなり雑になる。
PubMed を並べると、竹内の結論はこうだ。
1.6g/kg/日は天井にかなり近い。
ただし、
厳密な壁ではない。
普通のバルクや維持なら
- 1.6-2.0g/kg/日
でほぼ足りる。
一方で、
- 減量期
- 高除脂肪量
- 食欲管理をしたい局面
では、2.2g/kg 以上に実務的な意味が残ることもある。
ただしその意味は、
筋肥大ブースト
というより、
筋量維持の保険
に近い。
先に結論
| 論点 | 数字 | 竹内の評価 |
|---|---|---|
| 除脂肪量(FFM) | +0.30 kg | 小さい |
| 最大筋力(1RM) | +2.49 kg | 小さい |
| FFM変曲点 | 1.62 g/kg/日 | 天井にかなり近い |
| 変曲点 95%信頼区間 | 1.03-2.20 | 2.2 は上限側 |
| 筋力プラトー | 1.5 g/kg/日 | ほぼ同じ結論 |
| タイミング | 特異的な効果なし | 総量優先 |
| 1食あたり | 30-45 g | 実用的 |
| エネルギー不足時 | 効果サイズ -0.57 | 減量期は維持が主 |
| 3.4 g/kg/日 | FFM 差なし | 高すぎても筋肥大は増えない |
要するに、
- 1.6g/kg はかなり良い目安
- 2.2g/kg は全員の標準目標ではない
- 3g/kg超で筋肉がさらに増えるわけでもない
ということだ。
1.6g/kg の根拠は、ちゃんとしたメタから来ている
Morton 2018 は、この話の起点だ。
- 49 studies
- 1863 participants
で、タンパク質サプリメントはレジスタンストレーニングと組み合わせると
- 最大筋力(1RM):
- +2.49 kg
- 除脂肪量(FFM):
- +0.30 kg
- 筋線維断面積(CSA):
- +310 µm²
を増やしていた。
そして有名な変曲点分析で、
- 1.62 g/kg/日
が示された。
ここが「1.6g/kgで十分」の元ネタだ。
だから、この数字は雑誌記事の思いつきではない。
ちゃんとしたメタアナリシス由来だ。
ただし、1.62g/kg は「絶対的な壁」ではない
同じ Morton 論文で大事なのは、変曲点の信頼区間だ。
- 1.03-2.20 g/kg/日
となっている。
つまり、
真の天井はそこそこ幅がある。
しかも二相回帰は
- p = 0.079
で、そこまで強固な切れ目でもない。
ここから読むべきなのは、
1.6g/kg 付近で頭打ちに近づく
であって、
1.61は有効、1.63は無意味
ではない。
この違いはかなり大きい。
筋力側の用量反応も、だいたい 1.5g/kg で止まる
2022年の用量反応メタアナリシス は、筋力側の天井をもう少し分かりやすくしている。
ここでは、レジスタンストレーニングがある場合、
- タンパク質摂取量を 0.1 g/kg/日 上げるごとに
- 筋力は +0.72%
ずつ伸びる。
ただし、その関係は
- 1.5 g/kg/日
で頭打ちになった。
つまり、
- 除脂肪量:
- 1.62 g/kg/日
- 筋力:
- 1.5 g/kg/日
と、別のメタでもほぼ同じところに着地している。
ここまで揃うと、
普通の筋肥大・筋力狙いなら、1.6g/kg前後がかなり妥当
と言っていい。
効果サイズ自体は、実はそこまで大きくない
この話で忘れられやすいのが、そもそもの効果サイズだ。
Morton の数字をそのまま見ると、
- 除脂肪量:
- +0.30 kg
- 最大筋力:
- +2.49 kg
だ。
つまりタンパク質サプリメントの追加効果は、
ある。
でも、
派手ではない。
ここを盛って「プロテインを増やせば一気にデカくなる」と読むのは無理がある。
プロテインは重要だ。
ただ、それは
土台として重要
なのであって、
最後の 0.4g/kg を盛るだけで劇的に変わる
とは限らない。
タイミングより、まず総量
2020年のシステマティックレビュー/メタアナリシス を見ると、
- 成人:
- 除脂肪体重 +0.62 kg
- 高齢者:
- 除脂肪体重 +0.46 kg
で、タンパク質サプリメント自体は効いている。
でもサブグループを見ると、
タイミングによる特異的な効果は出ていない。
さらに 2019年のRCT(ランダム化比較試験) でも、
- 30gホエイをトレ直後
- 30gホエイを午後に回す
で、
- 除脂肪量
- ベンチプレス
- レッグエクステンション
- 握力
に差はなかった。
だから、ここでの結論はかなり単純だ。
まずは1日の総量。
トレ直後に神経質になるより、
その日トータルで足りているか
の方がずっと大事だ。
1食あたりは 30-45g が実用的
1日の総量が一番大事とはいえ、配分にも目安はある。
Loenneke 2016 では、
- 30-45 g/meal
を満たす食事が 1-2 回ある人ほど、
- 脚の除脂肪量
- 膝伸展筋力
が高かった。
ここから私は、
1食 30-45g を目安に、1日3-4回に分ける
くらいを実用ラインにしている。
アナボリックウィンドウ(筋合成のゴールデンタイム)を神格化する必要はない。
でも、
朝 10g、昼 15g、夜 90g
みたいな極端な配分よりは、この方が扱いやすい。
じゃあ、1.6g/kg超に本当に意味がある場面はどこか
ここが本題だ。
結論から言うと、
普通の筋肥大局面では、1.6g/kg超の上積みは小さい。
でも、例外はある。
1. 減量期
2022年のメタアナリシス では、
- エネルギー不足下のレジスタンストレーニングは
- 除脂肪量の増加を
- 効果サイズ = -0.57
だけ削っていた。
しかもメタ回帰では、
- ~500 kcal/day deficit
で除脂肪量の増加が止まりやすい。
つまり、減量期はそもそも
筋肉を増やすゲームではなく、減らさないゲーム
になる。
この局面でタンパク質を 2.2g/kg 以上に上げる意味は、
筋肥大をさらに加速
ではなく、
筋量維持の保険
だ。
2. トレーニング経験者
Morton でも、トレーニング経験者では
- 除脂肪量 +0.75 kg
と、全体平均の 除脂肪量 +0.30 kg より大きい。
経験者ほど、
- ベースラインが高い
- 伸びしろが小さい
- 食事管理も正確
ので、上限側まで詰める意味が少し残る。
ただ、それでも 2.5g/kg や 3g/kg が筋肥大の決定打になる証拠は弱い。
3.4g/kg/日まで上げても、除脂肪量は増えていない
ここでブレーキ役になるのが Antonio 2015 だ。
- 通常タンパク質群:
- 2.3 g/kg/日
- 高タンパク質群:
- 3.4 g/kg/日
まで上げても、
- 除脂肪量:
- +1.5 kg
- vs +1.5 kg
で差はなかった。
一方で、
- 体脂肪量:
- -0.3 kg
- vs -1.7 kg
と、体組成側には少し面白いシグナルがある。
つまり高タンパクの意味は、
筋肥大の追加ブースト
というより、
- 満腹感
- 食事誘発性熱産生
- 意図しないリコンポジション(体脂肪減+筋量維持)
みたいな別ルートに寄る可能性がある。
ここを混同しない方がいい。
じゃあ、どこを目標にするべきか
かなり雑に切ると、こうなる。
バルク・維持
- 1.6-2.0 g/kg/日
でほぼ十分。
かなり真面目なトレーニー
- 2.0-2.2 g/kg/日
までは詰めてもいい。
減量期
- 2.2 g/kg/日前後
- 場合によってはそれ以上
ただし目的は
筋肥大
ではなく
筋量維持
だ。
以前書いたタンパク質の最適摂取量の記事やプロテイン比較記事も、このテーマの前提としてつながる。
1日1.6-2.0g/kgを現実的に埋めるなら、まずは普通のホエイで十分。最後の0.3g/kgより、総量を毎日安定させる方が重要。
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竹内の結論
1.6 g/kg/日 は、
かなり良い目安だ。
これは過小評価でもないし、雑な神話でもない。
Morton 2018 の
- 1.62 g/kg/日
と、Tagawa 2022 の
- 1.5 g/kg/日
がだいたい同じ場所を指しているからだ。
ただし、
それを超えた瞬間に全部ムダ
とは読まない。
むしろ正確な結論はこうだ。
- 普通の筋肥大なら 1.6-2.0 g/kg/日 でほぼ足りる
2.2 g/kg/日は上限信頼区間や減量期の文脈で意味が残る3g/kg/日超は、筋肥大そのものの追加効果は薄い
だから、
1.6g/kg超に意味があるか?
への答えは、
普通のバルクなら「少しはあるかもしれないが、かなり小さい」。減量期なら「筋肥大ではなく維持のために意味がある」
になる。
