シュウ酸制限ダイエット(ロー・オキサレート)の科学的根拠を論文から検証
「ほうれん草は控えてください」
腎結石で泌尿器科を受診すると、こう言われることがある。シュウ酸カルシウム結石が腎結石の約80%を占めるから、シュウ酸を減らせば結石も減る——この理屈は一見正しそうに見える。
最近、バイオハッカー界隈で「ロー・オキサレート(低シュウ酸)」というキーワードを見かけるようになった。腎結石だけでなく、炎症軽減、関節痛改善、認知機能向上まで謳う人もいる。
私は論文を読む人間だ。「なんとなく良さそう」で食事を変えるつもりはない。PubMedでシュウ酸と腎結石、腸内細菌の関係を調べてみた。結論から言うと、シュウ酸制限「だけ」では不十分で、もっと重要な因子がある。
シュウ酸とは何か
シュウ酸(oxalic acid)は、ほうれん草、ルバーブ、ビーツ、アーモンド、チョコレートなどに含まれる有機酸だ。体内では代謝の最終産物としても生成される。
尿中に排泄されるシュウ酸の起源は2つある。
- 食事由来: 20-50%(従来の推定より高い)
- 内因性(体内合成): 50-80%
Mitchell 2020(PMID: 33379176)によれば、食事性シュウ酸の寄与は「20-50%」と推定されている。つまり、食事を完璧にコントロールしても、尿中シュウ酸の半分以上は体内で作られる。
さらに見落とされがちなのが、ビタミンC(アスコルビン酸)がシュウ酸の主要な前駆体だということ。高用量ビタミンCサプリ(1000mg以上/日)を摂っている人は、シュウ酸排泄が増える可能性がある。
カルシウムのパラドックス
「シュウ酸カルシウム結石ができるなら、カルシウムも控えるべきでは?」
これは直感的に正しく聞こえるが、完全に間違っている。
Ferraro 2025(PMID: 41258546)のレビューによれば、低カルシウム食は腎結石リスクを増加させる。なぜか。
腸管内でカルシウムとシュウ酸が結合すると、不溶性のシュウ酸カルシウムが形成され、そのまま便として排泄される。つまり、カルシウムがシュウ酸を「捕まえて」吸収を防いでくれる。
カルシウムが不足すると、遊離シュウ酸が腸管から吸収され、血中→尿中へと移行し、腎臓でシュウ酸カルシウム結石を形成する。
これが「カルシウムのパラドックス」だ。
Siener 2020(PMID: 32183500)は、カルシウム摂取量1000-1200mg/日を推奨している。ただし、食事と一緒に摂ることが重要。空腹時のカルシウムサプリは、シュウ酸と結合する機会がないまま吸収され、尿中カルシウム濃度を上げるだけになる。
腸内細菌がシュウ酸を分解する
Ghannam 2024(PMID: 38422861)のレビューで、私は「腸-腎軸」という概念を知った。
Oxalobacter formigenesという細菌は、シュウ酸を唯一の炭素源として利用する。シュウ酸をギ酸とCO2に分解し、腸管からの吸収を減らす。結石患者ではこの細菌の保有率が低い傾向があるという報告がある。
他にもシュウ酸分解能を持つ細菌がいる。
- Lactobacillus acidophilus
- Lactobacillus plantarum
- Lactobacillus brevis
- Bifidobacterium lactis
問題は、広域抗生物質の使用がこれらの細菌を減少させる可能性があることだ。
Jiang 2022(PMID: 35053400)のプロバイオティクスに関するレビューでは、一部のRCTで尿中シュウ酸排泄の低下が報告されている。ただし、結石再発予防の長期RCTは不足しており、「有望だが決定的ではない」というのが現状だ。
食事パターンと結石リスク
個別の成分より、食事パターン全体を見たほうが有益な情報が得られる。
Siener 2020の整理によると、
| 食事パターン | 結石リスク |
|---|---|
| 西洋型食事(高タンパク、高ナトリウム) | 増加 |
| DASH食 | 低下 |
| 地中海食 | 低下 |
| 乳製品を含む菜食 | 最も低い |
「乳製品を含む菜食」が最もリスクが低いというのは興味深い。野菜に含まれるシュウ酸より、乳製品のカルシウムがシュウ酸を「中和」する効果の方が大きいのだろう。
ビーガンで乳製品を摂らない人は、カルシウムサプリを食事と一緒に摂ることを検討すべきかもしれない。
エビデンスに基づく優先順位
論文を読んで、私は結石予防の優先順位を整理した。
優先度1: 十分な水分摂取(2-3L/日) 尿を希釈して、結晶が形成される濃度を下げる。最もシンプルで効果的。
優先度2: 適切なカルシウム摂取(1000-1200mg/日) 食事と一緒に。シュウ酸と結合させて吸収を防ぐ。
優先度3: ナトリウム制限 高ナトリウム食は尿中カルシウム排泄を増加させる。
優先度4: 動物性タンパク質の適正化 過剰摂取は尿酸結石のリスクを上げる。
優先度5: 極端な高シュウ酸食品の制限 ほうれん草(生)、ルバーブ、ビーツの大量摂取は避ける。
優先度6: 柑橘類の摂取 クエン酸がカルシウムと結合し、結石形成を阻害する。
シュウ酸制限は「優先度5」だ。決して無意味ではないが、水分とカルシウムの方が重要度が高い。
高シュウ酸食品リスト
一応、高シュウ酸食品を整理しておく。
非常に高い(100mg/100g以上)
- ほうれん草(生): 970mg
- ルバーブ: 860mg
- ビーツ(葉): 610mg
- アーモンド: 470mg
- カカオ/チョコレート: 400-500mg
高い(50-100mg/100g)
- ビーツ(根): 67mg
- スイスチャード: 64mg
- カシューナッツ: 56mg
- 紅茶(浸出液): 50-100mg/L
ただし、加熱調理でシュウ酸は減少する。ほうれん草は茹でてお浸しにすれば、生で食べるより安全だ。日本の伝統的な食べ方は理にかなっている。
「ロー・オキサレート」コミュニティの主張を検証
ネット上の「ロー・オキサレート」コミュニティでは、腎結石以外にも様々な効果が主張されている。
- 炎症の軽減 → エビデンス不足
- 自己免疫疾患の改善 → エビデンス不足
- 関節痛の軽減 → シュウ酸結晶沈着の症例報告はあるが、一般化できない
- 認知機能の改善 → エビデンスなし
腎結石予防については部分的に支持されるが、それ以外の効果は現時点でエビデンスがない。
「シュウ酸が全身の炎症を引き起こす」という主張は、科学的に検証されていない仮説だ。
私のアプローチ
私自身は結石の既往がないが、予防的に以下を実践している。
- 水分を十分に摂る(1日2L以上)
- カルシウムは食事から(乳製品、小魚)
- ほうれん草は茹でて食べる(生サラダは避ける)
- 高用量ビタミンCは避ける(500mg/日まで)
- プロバイオティクスでLactobacillusを補給
シュウ酸を「悪者」として排除するより、カルシウムと一緒に摂って「無害化」する方が合理的だと考えている。
結石予防に役立つサプリメント
シュウ酸と結合してシュウ酸マグネシウム(より溶解性が高い)を形成。クエン酸マグネシウムなら尿中クエン酸も増やせる。
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カルシウムとマグネシウムをバランスよく含む。食事と一緒に摂ることでシュウ酸の吸収を抑える。
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Lactobacillus acidophilusを含む8種の菌株。腸内でのシュウ酸分解をサポートする可能性。
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まとめ
シュウ酸制限は腎結石予防の「一部」であって「すべて」ではない。
エビデンスが示すのは、
- 水分摂取とカルシウム摂取がシュウ酸制限より重要
- 低カルシウム食は逆効果(カルシウムのパラドックス)
- 腸内細菌がシュウ酸を分解する
- 乳製品を含む菜食が最もリスクが低い
- 炎症・認知機能への効果はエビデンス不足
「ほうれん草を食べるな」という極端な主張より、「ほうれん草は茹でて、チーズと一緒に食べろ」の方が科学的に正しい。
エビデンスのない「万能解」を追い求めるより、基本に忠実でありたい。
参考文献
- Ferraro PM et al. (2025) The Role of Diet in Kidney Stone Pathogenesis and Prevention. Nutrients. PMID: 41258546
- Mitchell T et al. (2020) Contribution of Dietary Oxalate and Oxalate Precursors to Urinary Oxalate Excretion. Nutrients. PMID: 33379176
- Ghannam RB et al. (2024) Beneficial roles of gastrointestinal and urinary microbiomes in kidney stone prevention. Am J Physiol Renal Physiol. PMID: 38422861
- Siener R et al. (2020) Risk of Kidney Stones: Influence of Dietary Factors. Nutrients. PMID: 32183500
- Jiang T et al. (2022) Probiotics in the Prevention of Calcium Oxalate Urolithiasis. Urology. PMID: 35053400


