LDL論争の現在地、バイオハッカーがスタチンを飲む科学的理由を論文から検証
「LDLは本当に悪玉なのか」——この議論がSNSで定期的に盛り上がる。コレステロール陰謀論、スタチン不要論、製薬会社の陰謀説。
しかし2017年、欧州動脈硬化学会(EAS)のコンセンサス声明は明確に結論を出した。**「LDLがASCVD(動脈硬化性心血管疾患)を引き起こすことは、複数の臨床的・遺伝学的研究から明確に確立されている」**と。
今回は、この論争の現在地を論文から整理する。バイオハッカーと呼ばれる人々——Peter Attia、Bryan Johnson——がなぜスタチンを積極的に使用しているのか、その科学的背景を解説したい。
LDL因果関係のエビデンス
200以上のコホート研究
LDLと心血管疾患の関係は、単なる「相関」ではない。
2017年のEASコンセンサス声明は、200以上の前向きコホート研究、2000万人年以上のフォローアップ、15万件以上の心血管イベントを分析している。結論は明快だ:
LDL-Cへの血管曝露の絶対量と、ASCVDリスクの間には、驚くほど一貫した用量依存的な対数線形関係がある
つまり、LDLが高ければ高いほど、長く曝露されるほど、心血管リスクは上昇する。
メンデルランダム化という決定的証拠
相関関係と因果関係は異なる。「LDLが高い人は心血管疾患になりやすい」という相関があっても、「LDLを下げれば予防できる」という因果は証明できない——そう主張する人もいる。
しかしメンデルランダム化研究がこの問題を解決した。
遺伝的にLDLが低い人(生まれつきLDLを下げる遺伝子変異を持つ人)は、心血管疾患リスクが有意に低い。これは「逆因果」(病気になったからLDLが下がった)という解釈を排除できる。遺伝子は後天的な要因で変化しないからだ。
2012年のFerenceらの研究は、312,321人のデータを分析し、衝撃的な結果を示した:
人生早期からLDL-Cが低い人は、1mmol/l(38.7mg/dl)あたり54.5%のCHDリスク低減
これは、スタチンで後から下げた場合の約3倍の効果だ。なぜか?累積曝露量が少ないからだ。40歳からLDLを下げるより、生まれつき低い方が、血管へのダメージが圧倒的に少ない。
バイオハッカーがスタチンを選ぶ理由
Peter Attiaの見解
長寿医学の権威Peter Attiaは、自身もスタチンを服用している。彼の著書『Outlive』やポッドキャストで繰り返し強調するのは「ApoBの重要性」だ。
LDL-Cではなく、ApoBを測定すべき
ApoBとは、LDL粒子の表面に1つずつ存在するタンパク質だ。LDL-C(コレステロール量)よりも、ApoB(粒子数)の方が心血管リスクを正確に予測する。
2024年のCopenhagenの研究は、95,108人を約10年追跡し、「過剰ApoB」と心血管リスクの用量依存的な関連を示した。LDL-Cが正常範囲でも、ApoBが高ければリスクは上昇する。
Bryan Johnsonの数値目標
Blueprint Protocolで知られるBryan Johnsonは、さらに積極的だ。彼の公開データによると:
- ロスバスタチン5mg/日を使用
- ApoB目標:30mg/dl以下
通常の基準値(60-100mg/dl程度)と比較して、極めてアグレッシブな目標だ。
なぜ彼らはサプリではなくスタチンなのか
ここで正直に書いておく。LDLを下げる効果サイズで、スタチンに匹敵するサプリは存在しない。
2016年のJAMAメタアナリシスによると、スタチンは1mmol/lのLDL-C低下で23%の心血管リスク低減をもたらす。この効果は、エゼチミブなど他の薬剤でも同程度だ。
重要なのは、LDLを下げる手段に関係なく、同程度のリスク低減が得られるという点。これは「LDL低下そのもの」が心血管保護に寄与していることを示唆する。
スタチンの副作用は過大評価されている
2021年BMJメタアナリシス
スタチンの副作用を心配する声は多い。筋肉痛、糖尿病リスク、認知機能への影響——。
2021年のBMJメタアナリシスは、62試験・120,456人のデータを分析し、一次予防における副作用リスクを定量化した:
| 副作用 | オッズ比 | 1万人年あたりの増加 |
|---|---|---|
| 筋肉症状(自己申告) | 1.06 | 15例 |
| 肝機能障害 | 1.33 | 8例 |
| 腎機能障害 | 1.14 | 12例 |
| 眼疾患 | 1.23 | 14例 |
注目すべきは、糖尿病リスク増加は一次予防では有意差なしという点だ。
研究の結論は明快だ:
副作用リスクは低く、心血管疾患予防の効果を上回らない
ノセボ効果
スタチンの筋肉痛については、「ノセボ効果」の影響も指摘されている。副作用を予期することで、実際に症状が出やすくなる現象だ。
二重盲検試験では、プラセボ群でも相当数の「筋肉痛」が報告される。スタチンへの不安が、副作用の自己申告を増やしている可能性がある。
LDL批判派の主張を検証する
「高齢者でU字カーブがある」
低すぎるコレステロールと死亡率の関連を指摘する研究がある。これをもって「LDLは下げすぎると危険」と主張する人がいる。
しかしこれは逆因果で説明できる。癌や感染症など重篤な疾患があると、コレステロールが低下する。「低コレステロール→死亡」ではなく「重病→低コレステロール→死亡」という因果関係だ。
メンデルランダム化研究では、遺伝的に低いLDLと総死亡率の増加は確認されていない。
「スタチンは製薬会社の陰謀」
エビデンスの量と質を見てほしい。200以上のコホート研究、49以上のRCT、メンデルランダム化研究——これらすべてが「製薬会社の陰謀」で説明できるだろうか?
特にメンデルランダム化研究は、製薬会社とは無関係な遺伝学的データに基づいている。遺伝子は買収できない。
「効果サイズが小さい」
NNT(治療必要数)で見ると、スタチンの効果は確かに大きくない。数十人を数年治療して1人の心血管イベントを防ぐ程度だ。
しかしこれは「予防」の性質上、避けられない。LDLの累積曝露が問題なので、早期から長期間介入することで効果は積み上がる。Ference 2012の研究が示した「人生早期からなら3倍の効果」を思い出してほしい。
スタチン以外の選択肢
医薬品であるスタチンには処方箋が必要だ。ここでは、エビデンスのある代替手段を紹介する。
ベルベリン:メトホルミン代替としても注目
ベルベリンはLDL低下作用が報告されている植物由来成分だ。2008年のRCTでは、メトホルミンと同等の血糖コントロール効果を示しつつ、LDL-Cも有意に低下させた。
スタチンほどの効果サイズはないが、脂質プロファイル全体を改善する可能性がある。詳しくはメトホルミンからベルベリンへの切り替えを検討した記事を参照してほしい。
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赤麹(Red Yeast Rice)
赤麹にはモナコリンKが含まれる。これはロバスタチン(スタチンの一種)と同じ構造だ。つまり、赤麹サプリは「天然のスタチン」と言える。
ただし、製品によってモナコリンK含有量にばらつきがある。また、スタチンと同じ副作用リスクがある点も注意が必要だ。
赤麹サプリ。モナコリンK含有。スタチン類似の脂質改善作用
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CoQ10:スタチン使用者には必須
スタチンはコレステロール合成経路を阻害するが、同じ経路でCoQ10も合成される。そのため、スタチン使用者はCoQ10が枯渇しやすい。
赤麹サプリを使用する場合も、CoQ10の併用を検討すべきだ。40歳以上ならユビキノール形態を選ぶ理由についてはCoQ10の形態比較記事で詳しく解説している。
還元型CoQ10。スタチン使用者のCoQ10枯渇を補う
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私の現在のスタンス
正直に書く。僕自身は現時点でスタチンを服用していない。
理由は単純で、僕のApoBは許容範囲内だからだ。食事(地中海食ベース)、運動、ベルベリンの組み合わせで管理できている。
しかし、もしApoBが上昇してきたら、迷わずスタチンを選択する。LDLの因果関係は確立されている。この点に議論の余地はない。
「天然だから安全」「製薬会社は信用できない」——こういった感情論ではなく、エビデンスに基づいて判断すべきだ。EASのコンセンサス声明は、世界中の脂質研究者が合意した結論だ。それを個人の直感で覆すのは、科学への冒涜だと思う。
まとめ
LDL論争の現在地を整理した:
- LDL因果関係は確立:200以上のコホート研究、メンデルランダム化研究が支持
- ApoBの方が正確:LDL-Cだけでなく粒子数を見るべき
- 早期介入が効果的:人生早期からのLDL低下は、後からより3倍効果的
- スタチン副作用は過大評価:一次予防での副作用リスクは低い
- 代替手段も存在:ベルベリン、赤麹などにエビデンスあり
バイオハッカーがスタチンを飲む時代——それは陰謀でも流行でもなく、エビデンスに基づいた合理的判断だ。
今回紹介したサプリ
植物由来のAMPK活性化成分。LDL低下作用のエビデンスあり
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