子供時代のトラウマが大人の生きづらさにつながる?発達性トラウマの科学とケア

子供時代のトラウマが大人の生きづらさにつながる?発達性トラウマの科学とケア

夜、子供を寝かしつけた後、ふと「私、なんでいつもこんなに自分を責めてるんだろう」と思うことがある。

仕事でミスしたわけじゃない。子育てもちゃんとやってる。夫との関係も悪くない。なのに、心のどこかで「自分はダメだ」という声が消えない。

SNSでエビデンス系の心理師が『発達性トラウマ「生きづらさ」の正体』という本を紹介していた。

「子供時代のトラウマが、大人の生きづらさにつながる」

自分の幼少期を思い出す。両親は厳しかった。成績が悪いと怒られた。感情を出すと「我慢しなさい」と言われた。虐待とまでは言わないけど、「愛されてる」と感じた記憶は少ない。

「もしかして、これが原因?」

さっそく本を読んで、発達性トラウマについて論文も調べてみた。

子育てをしている今だからこそ、自分の子供時代を振り返り、そして息子と娘に同じことをしないために、知っておきたいと思った。

今回は、『発達性トラウマ「生きづらさ」の正体』の内容と、最新のエビデンスを元に、ワーママ目線で発達性トラウマについて考えてみる。

本の概要:発達性トラウマとは何か

『発達性トラウマ「生きづらさ」の正体』は、公認心理師のみき いちたろう氏が書いた本。ディスカヴァー・トゥエンティワン(携書)から2023年に出版された。

発達性トラウマとは

発達性トラウマ: 子ども時代に負ったトラウマで、複雑性PTSDの原因となる。

  • 家庭や学校での慢性的・反復的ストレス
  • 虐待、ネグレクト、いじめ、親の不和など
  • 単回性のトラウマ(事故、災害など)とは異なる
  • 「第四の発達障害」と呼ばれることもある

著者は、トラウマを「心の傷」ではなく「ストレス障害」として捉え、身体、脳、神経系、認知、感情への多角的影響を解説している。

本の構成(5章)

  1. この「生きづらさ」はどこから来るのか?
  2. トラウマをめぐる経糸と緯糸――「第四の発達障害」を生む発達性トラウマ
  3. トラウマがもたらす「自己の喪失」と様々な症状
  4. トラウマを理解する――ストレス障害、ハラスメントとしてのトラウマ
  5. トラウマを克服する

本の特徴は、ジュディス・ハーマン(『心的外傷と回復』)やベッセル・バン・デア・コーク(『身体はトラウマを記録する』)などの研究を網羅し、文献的にしっかりしている点。

第4章の「トラウマを理解する」が特に詳しく、身体、脳、神経系、認知、感情への影響が多角的に示されている。

エビデンス視点:ACEsと健康アウトカムの関係

本を読んで、発達性トラウマの概念に興味を持ったので、PubMedで関連するエビデンスを調べてみた。

発達性トラウマに関連する研究で最も有名なのが、**ACEs(小児期逆境体験)**の研究。

ACEsとは何か

CDCとカイザー・パーマネンテが開発した尺度で、子供時代の以下のような経験を評価する:

  • 身体的虐待
  • 精神的虐待
  • 性的虐待
  • 身体的ネグレクト
  • 情緒的ネグレクト
  • 親の離婚・別居
  • 家庭内暴力
  • 家族の薬物・アルコール依存
  • 家族の精神疾患
  • 家族の投獄

ACEスコアが高いほど、成人後の健康問題のリスクが高まることが分かっている。

ACEsと健康アウトカムのメタアナリシス

2019年のシステマティックレビュー&メタアナリシス(PMID: 31454589)は、ACEスケールを使った96の研究を分析した。

結果:

  • 複数のACEs曝露は、多様な健康アウトカムと関連する
  • 心理社会的/行動的アウトカムは、医学的アウトカムよりオッズ比が高い
  • ACEスクリーニングの利点を示唆

つまり、子供時代の逆境体験は、単に「心の傷」だけでなく、身体的健康にも影響を与えるということ。

Nature Medicineの総説:ACEsと生涯健康

2023年のNature Medicineの総説(PMID: 37464047)は、ACEsが生涯の健康に与える影響を包括的にレビューしている。

主なポイント:

  • ACEsは短期・中期・長期の健康への悪影響と関連する
  • 臨界期(発達の敏感期)の影響は掛け算的
  • 気候変動、紛争、人口移動などで複合化
  • 早期認識と多分野介入(保健、教育、女性のエンパワーメント、社会保護)の必要性

Nature Medicineという権威ある雑誌に掲載された総説であることから、ACEsと健康の関係は科学的に確立されたテーマと言える。

最新のJAMA研究:遺伝・環境要因を調整しても関連は残る

「でも、トラウマと精神疾患の関係って、遺伝的要因もあるんじゃない?」

そう思ったので、2024年のJAMA Psychiatryの双生児研究(PMID: 38446452)を確認した。

この研究は、スウェーデンの25,252人の双生児を対象に、ACEsと成人の精神疾患の関連を調査した。

結果: ACEsと成人精神疾患の関連は、遺伝的・環境的要因を調整した後も残る

特に:

  • ACEsの数が増えるごとに精神疾患のリスクが増加(フルコホート: OR 1.52)
  • 性的虐待の影響が特に強い(フルコホート: OR 3.09、一卵性双生児ペア: OR 1.80)

つまり、「家族の遺伝的・環境的要因」だけでは説明できない、ACEs自体の影響があるということ。

標的介入が将来の精神病理リスク低減に関連する可能性があるとも述べられている。

本を読んで考えたこと:ワーママ目線での感想

エビデンスを確認した上で、本を読んだ感想を正直に書く。

自分の生きづらさが少し理解できた

私の幼少期は、虐待と呼べるほどではなかった。でも、感情を出すことを許されない家庭だった。

  • 泣くと「うるさい」と言われた
  • 怒ると「我慢しなさい」と言われた
  • 成績が下がると「何やってるの」と怒られた

本を読んで、これも「情緒的ネグレクト」に当たるのかもしれないと思った。

「自分はダメだ」という声は、子供時代に形成された「自己像」なのかもしれない。

子供に同じことをしていないか?

5歳の息子が泣いているとき、「泣かないの!」と言ってしまうことがある。

3歳の娘がわがままを言うとき、「我慢しなさい」と言ってしまうことがある。

自分がされたことを、子供にもしている。

本を読んで、ハッとした。

「感情を出すことを許す」「子供の気持ちを受け止める」ことの大切さを、改めて学んだ。

トラウマを克服する方法は?

本の第5章「トラウマを克服する」では、具体的な方法が紹介されている:

  • 安全な環境の確保
  • 身体感覚への気づき(ソマティック・アプローチ)
  • 感情の言語化
  • 専門的なカウンセリング・セラピー

ただし、本を読むだけで克服できるものではない。

専門家の助けが必要なケースもあることは理解しておくべき。

完璧な親である必要はない

本を読んで、「自分も発達性トラウマがあるかも」「子供にトラウマを与えないようにしなきゃ」と焦ってしまった。

でも、同時に思った。

完璧な親である必要はない。

子育ては試行錯誤の連続。失敗もする。イライラもする。それでいい。

大切なのは、「自分の幼少期の経験」を知り、「子供に同じことをしない」よう意識すること

そして、子供の感情を受け止め、安全な環境を作ること

それができれば、完璧でなくてもいいと思う。

どんな人におすすめか

この本は、以下のような人におすすめ:

対象者理由
自分を責めてしまう人生きづらさの原因を理解できる
子育て中の親子供にトラウマを与えない子育てを学べる
感情のコントロールが難しい人トラウマと感情の関係を理解できる
人間関係がうまくいかない人愛着障害との関連を知ることができる
心理学・トラウマ研究に興味がある人文献的にしっかりしている

ただし、以下の点に注意:

  • 専門的な内容が多い(携書サイズだが内容は濃い)
  • 自己診断・自己治療ではなく、専門家の助けが必要なケースもある
  • 読むことで逆にトラウマが再活性化する可能性もある(無理に読まない)

まとめ:知ることで変われる

『発達性トラウマ「生きづらさ」の正体』は、子供時代のトラウマが大人の生きづらさにどうつながるかを、科学的根拠と臨床経験に基づいて解説した本。

エビデンスもしっかりしている。

  • ACEsと健康アウトカムの関連は96の研究で確認されている
  • Nature Medicineで総説が出るほど確立されたテーマ
  • 遺伝的・環境的要因を調整しても関連は残る

自分の生きづらさの原因を知ることで、変われる可能性がある。

そして、子供に同じことをしないために、知ることが大切。

完璧な親である必要はない。でも、「自分の幼少期の経験」を知り、「子供の感情を受け止める」ことを意識するだけで、子育ては変わる。

私自身、この本を読んで、息子と娘への接し方を少し変えようと思った。

「泣いてもいいよ」「怒ってもいいよ」「あなたの気持ちを聞かせて」

そう言える親でありたい。

今回紹介した本

関連書籍

ジュディス・ハーマン著。トラウマ研究の古典的名著

¥5,940 (記事作成時の価格です)

rakuten.co.jp

参考文献

Sources:

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