『糖質リスク』書評、食後高血糖の警告は妥当かPubMedで検証する

『糖質リスク』書評、食後高血糖の警告は妥当かPubMedで検証する

空腹時血糖もHbA1cも正常なのに、食後だけ妙に眠くなる。

この手の話を聞くと、僕はまず「主観ではなく、OGTTかCGMか、少なくとも論文を見よう」と言いたくなる。

石黒成治『糖質リスク 自覚なき「食後高血糖」が万病を招く』(SB新書、2024年)は、まさにその「見逃される食後高血糖」を警告する本だ。

タイトルはかなり強い。万病という言葉も、正直かなり煽っている。

ただし、論文を追うと、本書の問題提起そのものは軽視できない。BMJのメタアナリシスでは、食後2時間値で定義されるimpaired glucose toleranceが心血管疾患RR 1.30、全死亡RR 1.32と関連していた。

この記事では、三島が『糖質リスク』の中心仮説をPubMedで検証する。

結論を先に言えば、「食後高血糖を軽視するな」は正しい。ただし「糖質そのものが悪い」と読んだ瞬間に雑になる

出典: Amazon商品ページ / KAKEN 著者情報

著者の専門性は十分か

まず著者の立ち位置を確認する。

KAKENでは、石黒成治は名古屋大学医学部附属病院で消化器外科領域の研究に関わっていた研究者として登録されている。

三島の評価

  • 臨床医としての背景: 十分
  • 糖尿病学・栄養疫学の専門家か: そこまでは言えない

つまり、本書は糖尿病専門医の教科書として読む本ではない。
一方で、一般向けに「食後高血糖を疑え」と警鐘を鳴らす立場としては成立している。

本書の主張を一言でまとめる

副題どおり、本書のコアはこれだ。

「空腹時血糖やHbA1cが正常でも、食後高血糖は見逃されうる。そして、その積み重ねが代謝・血管・老化に効いてくる」

ここまでは、僕も概ね賛成だ。

問題はその先で、読者が

  • 糖質は全部悪い
  • 低糖質に寄せれば寄せるほどよい
  • CGMで1日の揺れを追えば健康になれる

と読んでしまうと、エビデンスから少し外れる。

以下、順番に見ていく。

エビデンス検証1: 食後高血糖は本当に危険か

ここは本書の勝ち筋だ。

Huang et al., 2016は、53前向きコホート・161万人超を統合したメタアナリシスだ。

結果は明快で、impaired glucose tolerance、つまり食後2時間値の異常は、

  • 心血管疾患 RR 1.30
  • 冠動脈疾患 RR 1.20
  • 脳卒中 RR 1.20
  • 全死亡 RR 1.32

と関連していた。

さらに、非糖尿病者19万人超を対象にした2011年のメタアナリシスでも、2時間食後血糖の上昇はCVDイベント RR 1.22、CVD死亡 RR 1.24だった。

三島の評価

ここは否定しにくい。

健康診断の空腹時血糖が正常でも、「食後だけ悪い」人は確かにいる。そして、そのパターンは長期リスクと無関係ではない。

つまり、本書の「自覚なき食後高血糖を見逃すな」は、煽りではなく、かなり真っ当な警告だ。

エビデンス検証2: 問題は「糖質」そのものか、「糖質の質」か

ここから雑になる本が多い。

糖質をひとくくりにすると、白パンとオートミール、砂糖入り飲料と豆入り雑穀ごはんが同じ箱に入ってしまう。

この乱暴さを正してくれるのが、Jenkins et al., 2024だ。10万人超規模のメガコホートだけを集めたかなり強いメタアナリシスで、

  • 高GI食は2型糖尿病 RR 1.27
  • 総CVD RR 1.15
  • 全死亡 RR 1.08

と関連していた。

しかも重要なのは、低GI食の利益は、高食物繊維・全粒穀物中心の食事とほぼ同方向だった点だ。

三島の評価

ここから言えるのは、敵は「糖質」ではなく、高GI・低繊維・精製度の高い糖質寄りの食事パターンだということだ。

『糖質リスク』というタイトルは覚えやすい。ただし、科学的には

「糖質リスク」より「高GI・低繊維リスク」

と呼んだ方が正確だ。

エビデンス検証3: 低糖質は万能か

もし本書を読んで「では糖質をできるだけ削ろう」と思ったなら、一度止まった方がいい。

Seidelmann et al., 2018は、ARICを含む43万人超のメタアナリシスで、炭水化物摂取割合と死亡リスクの関係がU字型になることを示した。

  • **50-55%**の炭水化物比率が最も低リスク
  • 40%未満では死亡リスク上昇(HR 1.20)
  • 70%超でも死亡リスク上昇(HR 1.23)

さらに、糖質を何で置き換えるかが重要で、動物性脂肪・動物性タンパク質に寄せる低糖質はリスク上昇、植物性の脂質・タンパク質に置き換える低糖質はむしろ低リスクだった。

三島の評価

ここはかなり重要だ。

「糖質を減らす」だけでは設計図として粗い。
必要なのは、

  • 何を減らすか
  • 何に置き換えるか
  • 長期で続けたときにどういう食事パターンになるか

まで見ることだ。

本書のメッセージをそのまま受け取って、肉とチーズ中心の低糖質に走るのは、エビデンスの読み違いになる。

エビデンス検証4: じゃあ何をすればいいのか

ここは本より論文の方がシンプルだ。

血糖スパイク対策として、まず再現性が高いのは食後に動くことだ。

Engeroff et al., 2023のメタアナリシスでは、食後の運動は無運動と比べてSMD 0.55で食後血糖上昇を抑えた。食前運動は有意差がなかった。

つまり、最初にやるべきは極端な糖質制限ではなく、

  1. 精製糖質を減らす
  2. 食物繊維と全粒穀物を増やす
  3. 食後すぐ歩く

この3つだ。

CGMは健康な人にも必要か

「隠れ食後高血糖」を可視化したいなら、CGMに興味が向くのは自然だ。

ただし、2025年のシステマティックレビューでは、非糖尿病者でのCGM利用データはまだ乏しく、心血管アウトカム改善は不明と整理されている。

三島の評価

CGMは発見ツールとしては面白い。
だが、健康な人にとって「つければ健康になる」段階ではない。

HbA1cが境界域、家族歴が強い、食後症状がはっきりある。そういう人が短期間だけ使って食事反応を学ぶなら合理的だ。

逆に、正常範囲の揺れを見て一喜一憂し始めると、ほぼノイズだ。

三島の総合評価

評価: ★★★★☆(4/5)

  • 強い点: 食後高血糖という盲点を、一般読者に分かる言葉で問題提起している
  • 強い点: 「空腹時血糖が正常なら安心」という誤解を崩せる
  • 弱い点: 「万病」「糖質リスク」というタイトルは、やや単純化が強い
  • 弱い点: 糖質の量と質、置換先の食品パターンを分けて考えないと誤読しやすい

誰に勧めるか

勧める人

  • 健康診断は正常だが、食後の眠気やだるさが気になる
  • 家族に糖尿病が多い
  • 糖質制限ブームの前に、まず問題設定を整理したい

勧めにくい人

  • 糖尿病治療の具体的ガイドラインがほしい
  • 栄養疫学を厳密に学びたい
  • 糖質をゼロに近づける理論武装がほしい

三島の結論: 問題提起は正しい、でも処方箋は単純化しすぎるな

『糖質リスク』の価値は、食後高血糖を軽く見るなと一般読者に伝える点にある。

そこは僕も支持する。

ただし、論文を読む側から言うと、話はそこで終わらない。

  • 食後高血糖は確かにリスクだ
  • しかし問題は糖質全般ではなく、高GI・低繊維・精製寄りの食事
  • 低糖質も万能ではなく、置換先の食品の質で長期予後が変わる

だから、僕の結論はこうだ。

読む価値はある。だが、読み終わったあとに「糖質が悪い」で止まるなら、その読後感は半分しか正しくない。

まず修正すべきは、白い炭水化物の比率、食物繊維不足、そして食後ずっと座りっぱなしの生活だ。

血糖管理の文脈でベルベリンとメトホルミンの比較も以前検証したが、サプリに飛びつく前にまず食事と運動を整えるのが先だ、という結論は変わらない。

今回紹介した書籍

糖質リスク 自覚なき「食後高血糖」が万病を招く

食後高血糖という盲点を一般向けに整理したSB新書。問題提起は妥当だが、糖質全体を悪者にしすぎない読み方が必要。

amazon.co.jp

さらに学びたい人へ

栄養素の通になる 第5版

糖質だけでなく、脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルまで代謝全体を学べる。単一栄養素の善悪を超えて考えたい人向け。

amazon.co.jp

この記事のライター

三島 誠一の写真

三島 誠一

論文原理主義者。PubMed、Examine.comを週末に巡回するのが娯楽。メタアナリシス・RCTまで読み、成分フォームと生体利用率を重視する。

三島 誠一の他の記事を見る
「何が効くか」ではなく「どのエビデンスをどこまで追うか、何を優先して選ぶか」を議論する、4人の異なる価値観を持つ健康研究メディア

検索

ライター一覧

  • 三島 誠一

    三島 誠一

    論文原理主義者。PubMed、Examine.comを週末に巡回するのが娯楽。メタアナリシス・RCTまで読み、成分フォームと生体利用率を重視する。 おすすめを見る →
  • 桂木 瑛

    桂木 瑛

    エビデンス沼のワーママ。信頼できるインフルエンサー経由の情報を追い、エビデンスあるものを試して体感で続けるか決めるスタイル。 おすすめを見る →
  • 竹内 翔

    竹内 翔

    効果サイズ原理主義者。エビデンスあっても効果サイズ小さいなら優先度は下がると考える。プロテイン、クレアチン、EAAがメインだが、効果サイズを基準に幅広く評価。 おすすめを見る →
  • 結城 優衣

    結城 優衣

    QOL研究家。エビデンス弱いのは分かった上で、QOL込みで選ぶ。続けられること、気分が上がることも効果のうちという考え。 おすすめを見る →

成分ガイド

タグ

Social Links

このサイトについて

※ 当サイトはアフィリエイトプログラムに参加しています。