睡眠不足は筋肥大をどれだけ削るか?筋合成の損失を数字で整理する
筋肥大の話をすると、つい
- たんぱく質は何gか
- クレアチンは飲んだか
- ボリュームは足りているか
に意識が向きやすい。
でも、PubMed を並べると、睡眠不足はかなり地味に重い。
しかも嫌なのは、
今日のトレーニング重量を即座に全部壊すタイプではない
ことだ。
その代わり、
筋肥大の土台になる筋合成率を 18-19% ほど削る
という形で効いてくる。
だから気づきにくい。でも、伸びを鈍らせるには十分だ。
先に結論
| 論点 | 数字 | 竹内の評価 |
|---|---|---|
| 5夜 4h睡眠のMyoPS | 1.53 → 1.24 %/day | 約 -19% |
| 1夜徹夜のMPS | 0.072 → 0.059 %/h | 約 -18% |
| testosterone | -24% | anabolic 側が落ちる |
| cortisol | +21% | catabolic 側が上がる |
| 減量中のfat-free mass損失 | 1.5 → 2.4 kg | 約 +60% |
| 翌日の筋力回復 | 大差なし | 即パフォーマンス崩壊ではない |
| GH | deprivationで低下、回復夜でrebound | 主指標にはしにくい |
要するに、
睡眠不足は「今日ベンチが何kg上がるか」より、「数週間後にどれだけ筋肉が残るか・増えるか」に効く。
一番重要なのは、5夜の睡眠制限でMyoPSが約19%落ちたこと
2020年のJ Physiol 論文 は、このテーマで一番使いやすい。
- healthy young men 24人
- normal sleep: 8 h in bed
- sleep restriction: 4 h in bed
- 期間は 5 nights
ここで見たのが、筋肥大のかなり中核に近い myofibrillar protein synthesis (MyoPS) だ。
結果はこう。
- normal sleep: 1.53 ± 0.09 %/day
- sleep restriction: 1.24 ± 0.21 %/day
差は -0.29 %/day。
比率で見ると、約 -19%。
この数字はかなり嫌だ。
なぜなら、これは
- むくみ
- 主観
- パンプ感
ではなく、
筋肉を作る速度そのもの
に近い数字だからだ。
しかも面白いのは、この研究では sleep restriction 群に 高強度インターバル運動 を足した群もあり、そこでは
- SR+EX: 1.61 ± 0.14 %/day
まで戻っていたこと。
つまり、
睡眠不足の悪影響は大きいが、運動刺激である程度は打ち返せる。
ただし、ここから言えるのは「運動すれば徹夜していい」ではない。
正しくは、
筋トレやHIITの刺激があっても、睡眠が足を引っ張る局面がある
ということだ。
1夜の徹夜でも、食後のMPSは約18%落ちる
「でも 5夜4時間は極端すぎる」と思うかもしれない。
そこに対して使いやすいのが、2021年の crossover 試験。
- healthy young adults 13人
- normal sleep vs one night total sleep deprivation
で、食後の muscle protein synthesis を見ている。
結果は、
- control: 0.072 ± 0.015 %/h
- sleep deprivation: 0.059 ± 0.014 %/h
で、約 -18%。
つまり、
たった1夜の徹夜でも、筋分解が激増する前に、まず筋合成が鈍る。
ここはかなり重要だと思う。
睡眠不足の筋肉リスクは、
- いきなり筋肉がごっそり溶ける
ではなく、
- 作る側の回転数が落ちる
という形で出る。
地味だけど、筋肥大にはこっちの方が効く。
ホルモン環境も、筋肥大には不利な方向へ動く
同じ 2021年の試験 では、ホルモンも見ている。
- cortisol: +21%
- testosterone: -24%
この2つは、かなり分かりやすい。
testosterone は下がる
筋肥大の説明を testosterone だけで済ませるのは雑だけど、それでも
anabolic 側が 24% 下がる
のは無視しにくい。
短期的に 1RM が即落ちるとは限らなくても、数日から数週間の適応環境としてはきれいに悪い。
cortisol は上がる
一方で cortisol は +21%。
これも「コルチゾールが上がったから終わり」という単純な話ではない。
ただ、
- 合成側は鈍る
- stress hormone は上がる
という方向がそろうと、回復にとって不利なのはかなり自然だ。
2021年の hormone clamp 試験 でも、4 nights of 4 h/night の睡眠制限で起きる代謝悪化の約半分は、cortisol と testosterone の exposure を調整すると軽減できている。
これは直接の筋肥大 RCT ではない。
でも、
睡眠不足の害に cortisol↑ / testosterone↓ がかなり関与している
という補助線としては十分強い。
ただし、翌日の筋力回復が即壊れるわけではない
ここは過剰に言わない方がいい。
2020年の recovery study では、筋損傷後に
- 48時間の total sleep deprivation + 12時間の normal sleep
- vs regular sleep
を比べている。
結果として、
- muscle voluntary contraction
- serum CK
には群間差がなかった。
つまり、
睡眠不足は、筋力回復を翌日すぐ全部壊すわけではない。
ただし同じ研究で、
- IL-6 上昇
- cortisol 高値
- cortisol / testosterone ratio 高値
などは見られている。
ここからの読みはシンプルだ。
「今日なんとか動ける」と「長期で伸びる」は別。
だから、睡眠不足でトレーニングできてしまう人ほど、影響を軽く見積もりやすい。
減量期はもっと危ない。短眠だと除脂肪量を守りにくい
筋肥大そのものの RCT ではないけど、ボディメイク目線でかなり重要なのが 2010年のAnn Intern Med 論文。
- overweight adults 10人
- calorie restriction 14日
- 8.5 h vs 5.5 h の睡眠機会
結果はかなり分かりやすい。
-
fat loss
- 8.5h: 1.4 kg
- 5.5h: 0.6 kg
-
fat-free mass loss
- 8.5h: 1.5 kg
- 5.5h: 2.4 kg
つまり、短眠だと
- 脂肪は落ちにくく
- 除脂肪量は 約 +60% 多く失う
方向に振れた。
減量中に「睡眠を削ってでも活動量を増やす」は、かなり危うい。
体重が落ちても、中身が悪くなりやすい。
GHは大事そうに見えるが、見出しにしすぎない方がいい
睡眠と筋肉の話になると、成長ホルモンを主役にしたくなる。
でもここは少し冷静に見た方がいい。
1998年の研究 では、36時間の睡眠 deprivation 中に GH secretion は大きく低下している。
一方で、1999年の研究 では、recovery night の最初の4時間で GH は増加している。
つまり、
- deprivation の夜は下がる
- 回復夜では反動で上がる
ので、GH 単独で
「睡眠不足で筋肥大が何%落ちるか」
を説明しきるのは難しい。
私はこのテーマでは、GH より
- MPS / MyoPS
- testosterone
- cortisol
- fat-free mass
の方を優先して読む。
深い睡眠そのものの整え方は、前に書いた深い睡眠の習慣づくりの記事で詳しく整理している。
じゃあ、何を優先すべきか
このテーマで一番ずれるのは、
睡眠サプリで睡眠不足を相殺しようとすること
だと思う。
順番は逆だ。
優先順位は、
- 就寝時刻を大きく崩さない
- 削るならトレ時間よりスマホ時間を削る
- 減量期ほど睡眠を守る
- サプリは補助に留める
この順番。
サプリで一番マシなのは、睡眠不足を消すものではなく、
寝る準備を少し助けるもの
だ。
私はその用途なら、まずグリシンくらいで十分だと思っている。
睡眠不足を帳消しにはできないが、就寝前のルーティン補助としては扱いやすい。まずは睡眠時間の確保が先。
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竹内の結論
睡眠不足は、筋肥大をゼロにする魔法ではない。
でも、
- 5夜の4時間睡眠で MyoPS 約 -19%
- 1夜の徹夜で MPS 約 -18%
- testosterone -24%
- cortisol +21%
まで並ぶと、十分に無視できない。
しかも厄介なのは、
今日のパフォーマンスを少し残したまま、数週間後の伸びを削る
ことだ。
だから結論はかなり単純になる。
筋肥大の優先順位は、プロテインやプレワークアウトの前に、まず睡眠。
少なくとも、
毎晩4-5時間で筋肉だけは順調に増やす
というのは、PubMed ベースではかなり無理がある。
