『体力おばけへの道』レビュー、HIITの効果サイズg=0.77は本当か検証
『体力おばけへの道』という本を読んだ。
著者は澤木一貴。トレーナー歴34年、Tarzanでもおなじみのパーソナルトレーナーだ。監修は國本充洋医師(循環器内科専門医)。
本の主張はシンプル。HIITより強度の低い「イージーHIIT」で、子供から80代まで体力おばけになれると。
面白い主張だ。でも、効果サイズで見るとどうなんだろう?
検証してみた。
本の主張を整理する
この本のポイントは3つ。
- 2つの体力が重要: 「行動体力」(身体を動かす力)と「防衛体力」(病気やストレスに打ち勝つ力)
- イージーHIITの推奨: HIITより強度が低く、継続しやすい運動
- 具体的な運動法: スタンドアップ、バックステップ、リズミカルジャンプの3種
特に気になるのは「イージーHIIT」だ。HIITより強度を下げても効果があるのか?
効果サイズで検証する。
HIITの効果サイズ:確かに効く
まず、通常のHIITの効果サイズを確認しよう。
2024年のメタアナリシス(44 RCT、1,863名)によると、60歳以上の高齢者でHIITを行うと:
HIIT vs 何もしない
| アウトカム | 効果サイズ(g) | 解釈 |
|---|---|---|
| 心肺機能(CRF) | g = 0.77 | 中〜大 |
| バランス | g = 0.79 | 大 |
| 筋持久力 | g = 0.65 | 中 |
| 筋力 | g = 0.47 | 小〜中 |
| 収縮期血圧 | g = -0.29 | 小 |
| 体脂肪率 | g = -0.26 | 小 |
心肺機能への効果サイズg=0.77は「中〜大」。これは確実に体感できるレベルだ。
バランス(g=0.79)や筋持久力(g=0.65)も中程度以上の効果がある。
本の基本的な主張「運動で体力がつく」は正しい。
HIIT vs 中強度運動:HIITの方がやや優れる
では、HIITと中強度連続運動(MICT:ジョギングなど)を比較するとどうか?
同じメタアナリシスによると:
HIIT vs 他の運動(MICT等)
| アウトカム | 効果サイズ(g) | 解釈 |
|---|---|---|
| 心肺機能(CRF) | g = 0.23 | 小 |
| 安静時心拍数 | g = -0.11 | 小 |
| 収縮期血圧 | g = -0.14 | 小 |
HIITとMICTの差は小さい(g=0.23)。
別の2024年のメタアナリシス(29試験、1,227名、平均65.4歳)でも:
| アウトカム | HIIT | MICT | 差 |
|---|---|---|---|
| VO2max | g = 0.722 | g = 0.490 | HIITやや優 |
| 体脂肪率 | g = -0.297 | g = -0.262 | 同等 |
両方とも効くが、HIITの方がやや優れる。
ただし、質の高い試験(対照群あり)に限定すると差が広がる:
- HIIT:g = 1.068(大きい効果)
- MICT:g = 0.109(ほぼ効果なし)
時間効率を考えると、HIITの方が合理的。
問題点:「イージーHIIT」のエビデンスは?
ここからが本題。
本が推奨する「イージーHIIT」(低強度インターバル、LIIT)のエビデンスはどうか?
正直に言う。「LIIT」「イージーHIIT」という用語での論文はほぼ存在しない。
PubMedで検索しても、HITからさらに強度を下げた「イージーHIIT」の効果を検証した研究は見つからなかった。
強度と効果の関係
2021年のメタアナリシスによると、HIITの最適条件は:
- 期間: 12週間以上
- 頻度: 週2回
- セッション: 40分
- 運動時間: 60秒以上/レップ
- 休息: 90秒未満
これらの条件を満たすと、VO2max改善効果が最大化される。
強度を下げれば、効果も下がる可能性が高い。
低強度運動のエビデンス
ただし、低強度運動に効果がないわけではない。
- MVPA(中〜高強度運動)5分増加 → 死亡6-10%減少
- 座位時間30分減少 → 死亡3-7%減少
動かないよりは、低強度でも動いた方がいい。これは間違いない。
俺の評価
効果サイズで整理すると、こうなる。
本の主張の検証
| 主張 | エビデンス | 評価 |
|---|---|---|
| 運動で体力がつく | CRF g=0.77(中〜大) | ✅ 正しい |
| HIITより低強度を推奨 | HIIT > MICT(g=0.23の差) | △ 要検討 |
| 子供から80代まで | 高齢者でもHIIT有効 | ✅ 条件付き正しい |
良い点
- 基本的な方向性は正しい: 運動で体力がつくのは確実(g=0.77)
- 継続の重要性を強調: 強度より継続が大事という視点は正しい
- 具体的な運動法: 何をすればいいか分かりやすい
- 医師監修: 循環器内科専門医が監修している安心感
気になる点
- 「イージーHIIT」のエビデンス不足: この用語での研究がない
- 強度を下げるリスク: 効果サイズも下がる可能性
- 「体力おばけ」の定義が曖昧: 何をもって「体力おばけ」とするのか
結論:継続できるなら買い
効果サイズで見ると、HIITは確かに効く。心肺機能への効果サイズg=0.77は中〜大だ。
ただし、「イージーHIIT」のエビデンスは不足している。強度を下げすぎると効果も下がる。
俺なら、こう考える。
「イージーHIIT」で始めて、慣れてきたら徐々に強度を上げる。
最初から高強度は無理でも、8週間〜12週間で徐々に上げていけばいい。そうすれば、効果サイズを最大化できる。
継続できないHIITより、継続できるイージーHIITの方がマシ。これは間違いない。
運動習慣がない人、高齢者、運動が苦手な人にとっては、この本は入り口として良いと思う。
ただし、「イージーHIIT」で満足せず、徐々に強度を上げていくことを推奨する。
効果サイズの目安
最後に、効果サイズの解釈を載せておく。
| 効果サイズ(g) | 解釈 |
|---|---|
| g < 0.2 | 小さい(ほぼ体感できない) |
| g = 0.2-0.5 | 小さい〜中程度 |
| g = 0.5-0.8 | 中程度(体感できる) |
| g > 0.8 | 大きい(明らかに体感できる) |
HIITのCRF効果サイズg=0.77は「中〜大」。これは確実に体感できるレベルだ。
運動は効く。問題は、どの強度で続けるかだ。
