赤色光療法(633nm/830nm)の科学、ATP産生促進はどこまで本当か
赤色光療法は、かなり話を盛られやすい。
633nm と 830nm を当てると ATP が増えて、細胞が若返る
こういう言い方はよく見る。
ただ、PubMed を読むと、ここはもう少し丁寧に切り分けた方がいい。
先に結論を書く。
- 633nm / 830nm という波長設計自体はかなり筋がいい
- ATP産生促進は、主にミトコンドリア仮説と前臨床で支えられている
- ヒトで直接ATPを測った強いランダム化比較試験はかなり薄い
- それでも、皮膚の光老化や運動回復のような代理アウトカムでは控えめな改善シグナルがある
つまり、これは完全なマーケティングのフィクションではない。
でも、人間で ATP 爆上がりが確定した治療 と言うのも、かなり踏み込みが強い。
そもそも、なぜ 633nm と 830nm なのか
赤色光療法でこの2つの数字がよく出るのは偶然ではない。
2016年の機序レビュー と 2018年のレビュー は、フォトバイオモジュレーション(光生体調節)の主戦場が 赤色光から近赤外光 の帯域にあると整理している。
一般に、
- 633nm 前後 は可視赤色光で、より浅い組織に使いやすい
- 830nm 前後 は近赤外で、より深部まで届かせたい設計でよく使われる
この組み合わせは、表層とやや深部を同時に狙う 発想として理解するとわかりやすい。
ここまでは、かなり自然だ。
ATP産生促進の中心仮説は、シトクロムcオキシダーゼ
赤色光療法の機序ストーリーの中心は、いまだに シトクロムcオキシダーゼ(CCO) だ。
- 光子がミトコンドリアに届く
- CCOに結合した抑制的一酸化窒素が外れる
- 電子伝達が回復する
- ミトコンドリア膜電位が上がる
- ATP産生が上がる
という流れを、主仮説として整理している。
さらにその後、
- 活性酸素種(ROS)
- サイクリックAMP
- 一酸化窒素(NO)
- カルシウムイオン
を介した二次シグナルが動き、炎症、修復、増殖、抗酸化酵素発現といった下流の効果につながる。
だから ATP産生促進 という売り文句は、ゼロから作られた話ではない。
少なくともメカニズムの土台はある。
ただし、ここで言う ATP 増加は主に前臨床の話だ
重要なのはここだ。
ATP が増える
という主張は、前臨床ではかなり筋がいい。
ただし、ヒトで筋生検や組織ATPを直接見た大きなランダム化比較試験が積み上がっているわけではない。
2015年の細胞研究 では、633nmと830nmのLEDはヒト骨髄間質線維芽細胞の遺伝子発現を変え、しかも赤色と近赤外で経路が違う可能性まで示している。
ここから言えるのは、
- 633nmと830nmは同じではない
- エネルギー密度もかなり重要
赤色光なら何でも同じではない
ということだ。
逆に言うと、波長と用量を雑にした時点で議論が崩れる。
ヒトで確認されているのは、まず皮膚アウトカムだ
633nm / 830nm の組み合わせは、ヒトで全く使われていないわけではない。
2006年の臨床研究 では、633nm + 830nm LED を光老化した肌に使い、しわの改善とコラーゲン線維の超微細構造の変化を報告している。
ここで大事なのは、人間で何かしらの生理的変化は起きていそうだ という点だ。
ただし、見ているのは
- しわ
- 肌の質感
- コラーゲンの超微細構造
であって、ATP そのものではない。
つまりこの論文は、
633/830nm は外していない
ことは支えるが、
ヒトで ATP 産生促進が直接証明された
とまでは言わない。
家庭用の近傍波長でもシグナルはある
家庭用デバイス文脈では、波長がぴったり 633 / 830 ではなく、637 / 854 や 660 / 850 に寄ることが多い。
2020年のスプリットフェイスパイロット試験 では、637nm + 854nmの家庭用LED を8週間使い、肌の弾力と質感の改善を報告している。
この論文も、かなり示唆的だ。
少なくとも、
- 家庭用LEDでも
- 赤色光 + 近赤外光の近傍波長を押さえれば
- 皮膚アウトカムに一定のシグナルは出る
可能性がある。
ただしここでも評価項目は 顔の若返り であり、ATPではない。
じゃあ、ATP 仮説は臨床で全く役に立たないのか
そこまで弱くはない。
2024年のメタアナリシス は、運動前フォトバイオモジュレーションをまとめ、筋持久力がSMD 0.31、筋力回復がSMD 0.24 と、控えめだが有意な改善を示した。
ここから言えるのは、
- フォトバイオモジュレーションはヒトで完全に無風ではない
- 回復や持久力では、それなりのシグナルがある
ということだ。
ただ、ここでも注意がいる。
このメタアナリシスは ATPを測った のではなく、機能アウトカムの改善を見ている。
だからロジックとしては、
ミトコンドリア機序がありそう
機能アウトカムも少し動く
なら ATP やエネルギー代謝が関与していても不思議ではない
という順番になる。
ATP増加がヒトで直接確認されたから、機能が上がった と逆向きに言うのはまだ早い。
一番大きい問題は、パラメータ依存性が強すぎること
赤色光療法の議論がややこしくなる最大の理由は、ここだと思う。
2021年の臨床レビュー も、フォトバイオモジュレーションは臨床応用がかなり広がっている一方で、
- 小規模コホート
- 方法論的欠陥
- 産業界からの資金提供
- 消費者向けデバイスと高品質な試験で使われたシステムの差
を問題にしている。
さらにフォトバイオモジュレーションは、
- 波長
- 放射照度
- フルエンス(照射エネルギー密度)
- 距離
- パルシング
- 組織の状態
で結果がかなり変わる。
要するに、
633nm か 830nm なら自動的に ATP が増えて効く
という理解は雑すぎる。
同じ波長でも、当て方が違えば別物 だ。
三島の結論
赤色光療法の ATP産生促進 は、完全なハッタリではない。
PubMed ベースでも、
- CCO仮説
- 一酸化窒素の解離
- 電子伝達の回復
- ミトコンドリア膜電位の上昇
- ATP産生の上昇
という機序ストーリーはかなり筋が通っている。
ただし、強く言えるのはそこまでだ。
ヒトで直接確認されているのは主に、
- 光老化した肌の改善
- 肌の弾力の改善
- 回復や持久力の控えめな改善
のような代理アウトカムだ。
だから私の結論はシンプルで、
633nm / 830nm の赤色光療法は「かなりありそう」だが、「ヒトでATP爆上がり確定」ではない。
この温度感がいちばん正確だと思う。
家庭用で試すなら、近傍波長のデバイスを見る
家庭用は 633 / 830 にぴったり合わせるより、660 / 850 の近傍波長が多い。
論文の波長と完全一致ではないが、赤色光 + 近赤外光のフォトバイオモジュレーションの有効帯域を押さえた家庭用デバイス としては見やすい。
睡眠や夜のリラックス寄りの使い方は、前に書いた 赤色光療法(CurrentBody LEDパネル)を夜のリラックスに、睡眠の質が上がった理由 で分けている。今回はそこではなく、633nm / 830nmの機序上の主張をPubMedで冷静に点検する記事 だ。
660nm/850nmの近傍波長モデル。633/830と完全一致ではないが、赤色光療法を家庭用で試すときの比較対象として見やすい。
¥77,000 (記事作成時の価格です)
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