フィセチンはイチゴで足りる?ヒト試験の設計例から逆算した現実

フィセチンはイチゴで足りる?ヒト試験の設計例から逆算した現実

フィセチンは、長寿界隈だと「天然のセノリティクス」としてよく持ち上げられる。

で、必ず出てくるのがこれ。

「イチゴに多いなら、イチゴを食べればいいのでは?」

数字で切ろう。

結論から言うと、少なくとも現在のヒト試験で使われる設計例に、イチゴだけで届かせるのは無理だ。

しかも厄介なのは、そもそもヒトでのセノリティクス有効量自体がまだ確定していないこと。

今のところ言えるのは、

  • マウスではフィセチンが有望
  • STOP-Sepsis のようなヒト試験 protocol の一例では 20 mg/kg
  • イチゴは多くても 1パック250gで約40 mg

ということ。

70kgの人なら、1日35パック。2日プロトコルなら70パック。ここまで来ると、長寿より先に胃が壊れる。

まず前提: フィセチンは「ヒトで証明済みの長寿成分」ではない

EBioMedicine 2018 は、この分野の起点みたいな論文だ。10種のフラボノイドを比べた結果、fisetin が最も potent senolytic とされた。老齢マウスでは senescence markers を下げ、寿命まで延ばしている。

ここだけ切り取ると強い。

ただし、主語はマウスだ。

ヒトについては、2024年のレビュー でもかなり率直に書かれている。

in-human trials remain limited, and findings were inconclusive

つまり、

「フィセチンはセノリティクスとして有望」までは言える。だが「ヒトで効いた」までは言えない。

ここを飛ばしてサプリを積み上げるのは、ちょっと早い。

20 mg/kg は「ヒト有効量」ではなく protocol 上の設計例

じゃあ、ヒトではどんな量で試されているのか。

STOP-Sepsis の Phase 2 protocol では、高齢敗血症患者に対してフィセチンを

  • 20 mg/kg 単回
  • または 20 mg/kg を2回

で投与する設計になっている。

まだこれは結果ではなく protocolだ。

だから「20 mg/kg がヒトで確立した有効量」とは言えない。

しかもこれは敗血症患者向けの protocolだ。長寿目的の一般人にそのまま持ち込める数字ではない。

でも、少なくとも “ヒトでセノリティクス仮説を検証する試験では、このくらいの量を設計している例がある” という目安にはなる。

体重別にするとこう。

体重STOP-Sepsis protocol上の設計例
50 kg1,000 mg
60 kg1,200 mg
70 kg1,400 mg
80 kg1,600 mg

ここで気づくはずだ。

普段売られている 100 mg とか 200 mg のサプリは、こうした試験設計の量とはかなり距離がある。

イチゴのフィセチン量は、最高値で 160 μg/g

次に食材側を見る。

Kimira et al. 1998 は、日本人女性の flavonoid intake を推定した古い研究だ。平均 fisetin 摂取量は 0.4 mg/日 とされている。

さらに、フィセチン総説の PMC本文 では、このデータベースをもとに

  • strawberries: 160 μg/g
  • apple: 26.9 μg/g
  • persimmon: 10.5 μg/g

と整理している。

ここで重要なのは、160 μg/g はかなり好条件の上限寄り ということだ。品種、分析法、保存、乾燥条件で数字はブレる。

だから今回は、イチゴにかなり有利な条件で計算する。

計算しやすく直す

  • 160 μg/g = 0.16 mg/g
  • 100 g のイチゴで 16 mg
  • 250 g パックなら 40 mg

つまり、1パック250gでフィセチンはせいぜい40 mg前後

何パック必要か、実際に計算する

前提:

  • STOP-Sepsis protocol上の設計例: 20 mg/kg
  • イチゴのフィセチン量: 0.16 mg/g
  • 1パック: 250 g
  • 1パックあたりフィセチン: 40 mg

体重別

体重設計例用量必要なイチゴ量250gパック換算
50 kg1,000 mg6.25 kg25パック
60 kg1,200 mg7.5 kg30パック
70 kg1,400 mg8.75 kg35パック
80 kg1,600 mg10.0 kg40パック

70kgなら、1日35パック

しかも、STOP-Sepsis は 単回 or 2回投与 を見ている。2回コースなら、70kgで 70パック

ここまで来ると、議論は終わりだろ。

イチゴで、こうした試験 protocol 上の設計量に届かせるのは現実的ではない。

しかもこれは「イチゴに有利な計算」

今回の計算は、かなりイチゴに甘い。

  • 含有量は 最高値 160 μg/g を採用
  • パック重量は 250g と軽めに設定
  • 吸収率のロスをほぼ無視

現実には、ここからさらに厳しくなる可能性が高い。

理由は単純で、フィセチンは吸収性が良くないからだ。

2022年のヒトPK試験 では、未加工フィセチン 1000mg と改良製剤を比べている。改良製剤の AUC は 26.9倍、Cmax は 23倍超

これは逆に言えば、

普通のフィセチンは吸収がかなり悪い

ということだ。

つまり、食材から取ったフィセチンがそのまま試験用量の「等価」になると思わない方がいい。

じゃあ、サプリなら届くのか

物理的には届く。

でも、ここでまた冷静になる必要がある。

100 mg/日のサプリ

  • 70kgの protocol 設計量 1,400 mg に対して 1/14

200 mg/日のサプリ

  • 1/7

Sinclair系でよく見る 500 mg/日

  • 約 36%

だから、一般的な daily supplement dose はこうした試験 protocol の設計量よりかなり低い

実際、ヒトRCTはあっても解釈は微妙だ。

2026年のRCT では、肥満男性に 200 mg/日 のフィセチンを12週間投与している。運動と組み合わせると adipokines や lipid profile が改善した。

でもこれは、

  • 運動介入込み
  • セノリティクス endpoint ではない
  • 老化細胞が減った証拠ではない

という限界がある。

逆に、2021年のRCT では fisetin 59mg を含む抽出物を12週間使っている。肝機能や脂質には有意差が出なかった。

つまり、ヒトで見える効果はまだかなり混沌としている。

それでも試してみたいなら、吸収設計されたものがある。

Life Extension, バイオフィセチン、ベジカプセル30粒

吸収サポート設計のフィセチン。セノリティクス候補として注目される成分だが、ヒトでの有効量は未確定。

iherb.com

(Amazonと楽天では、同じ商品が見つからない場合があります)

イチゴを食べる意味はゼロか?

そこは違う。

俺は「セノリティクス用量に届かない = 無意味」とは言わない。

イチゴには、

  • ビタミンC
  • 他の polyphenols
  • 果物としての置き換え価値

がある。

だから、イチゴを健康食品として食べるのは全然ありだ。

でも、期待値の置き方を間違えるなという話。

正しい期待値

  • イチゴは良い果物
  • フィセチンも少しは入っている
  • ただし セノリティクス治療の代わりにはならない

ここを混ぜると、話が雑になる。

竹内の結論

フィセチンをセノリティクスとして見たとき、現時点の結論はシンプルだ。

  1. 根拠の中心はマウス
  2. ヒトでの有効性はまだ未確定
  3. STOP-Sepsis のようなヒト試験 protocol の一例では 20 mg/kg が使われている
  4. イチゴは多くても 250gで約40mg
  5. 70kgなら 35パック/日 必要

だから、

「イチゴを食べて、現在あるヒト試験 protocol 級の設計量に届かせる」のは無理。

食事としてのイチゴは優秀だ。でも、そこに老化細胞除去まで背負わせるのは期待しすぎだろ。

フィセチンを本気で狙うなら、食材ではなく高用量サプリや臨床試験 protocol の世界になる。

ただし、その世界ですら、まだヒトの結論は出ていない。

今の位置づけはこれだ。

面白い成分ではある。でも、優先順位トップに置くにはまだ早い。

フィセチンの全体像は フィセチンとケルセチンの記事Sinclair の 2026年サプリ変更記事 にまとめてある。成分ベースで見たいなら フィセチン成分ページ が早い。

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竹内 翔

効果サイズ原理主義者。エビデンスあっても効果サイズ小さいなら優先度は下がると考える。プロテイン、クレアチン、EAAがメインだが、効果サイズを基準に幅広く評価。

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