ApoB vs 非HDL-C vs LDL-C、どれが最も得かをQALYで比べる
LDL-C だけ見て薬を強める。
このやり方、まだ普通に残っている。
でも、effect size 原理主義で見ると、ここにはだいぶ無駄がある。
今回の JAMA 2026 は、
- LDL-C
- non-HDL-C
- ApoB
の3つを、
どれが理論的に正しいか
ではなく、
どれが QALY を一番増やし、しかも金を食いすぎないか
で並べた。
ここがいい。
桂木の記事が家族の健診導線に落としたのに対して、竹内版はもっと冷たい。
どの指標が、臨床的にも経済的にも一番強いか。
そこだけ見る。
先に結論
| 指標 | 臨床 effect size | JAMA 2026 の経済評価 | 竹内の評価 |
|---|---|---|---|
| LDL-C | RRR 1.25、statin下 CHD risk reduction 20.1%/SD低下 | 基準線 | 一番弱い |
| non-HDL-C | RRR 1.34、LDL-C より 5.0%強い | +965 QALYs かつ -$2.1M | 無料アップグレード |
| ApoB | RRR 1.43、LDL-C より 12.0%強い | さらに +1324 QALYs、ICER $30,300/QALY | 有料でも十分成立 |
要するに、
- LDL-C only は一番コスパが悪い
- non-HDL-C は無料なのにかなり強い
- ApoB は最強で、しかも思ったより高くつかない
という話だ。
実務に落とすと、
まず non-HDL-C、必要なら ApoB。
これがいちばん筋が通る。
まず JAMA 2026 は何を比べたのか
PMID: 41949879 は、一次予防の脂質管理を computer simulation で比較した economic evaluation だ。
対象は、
- ASCVD-free
- statin-eligible
- 米国成人
25万人のコホート。
達成目標は3つ。
- LDL-C <100 mg/dL
- non-HDL-C <118 mg/dL
- ApoB <78.7 mg/dL
この目標を満たさなければ、
- 高強度スタチン
- エゼチミブ
で強化する。
つまりこの論文は、
どの検査指標がリスク予測に優れているか
だけではなく、
どの指標で治療強化を回した方が、集団全体で得か
を見ている。
LDL-Cより non-HDL-C の方が、まず普通に得
この論文で最初に押さえるべきは、ApoB ではない。
non-HDL-C だ。
LDL-C goal と比べると、
- non-HDL-C goal は 965 QALYs gained
- しかも $2.1 million cost reduction
だった。
ここがかなり大きい。
つまり、
LDL-C より non-HDL-C で治療強化を決めた方が、モデル上は健康も増えて、しかも少し安い。
要するに non-HDL-C は、
無料のアップグレード
だ。
なぜなら non-HDL-C は追加採血が不要だからだ。
総コレステロールから HDL-C を引けば、その場で出る。
この時点で、
LDL-C だけで止まる合理性はかなり薄い。
ApoB は non-HDL-C よりさらに勝つ。でもコストは増える
その上で、ApoB はさらに前に出る。
JAMA 2026 では、
- ApoB goal vs non-HDL-C goal
- 1324 QALYs gained
- $40.2 million cost increase
- ICER $30,300/QALY
だった。
ここで重要なのは、$40.2 million増 だけ見ると高く見えることだ。
でも cost-effectiveness では、見るべきは総額より ICER だ。
この論文は $120,000/QALY を threshold にしていて、その基準なら
- ApoB optimal 65%
- non-HDL-C optimal 25%
だった。
つまり、
ApoB は expensive toy ではなく、十分に pay する上位戦略
と読める。
しかも著者らは、
ApoB testing cost was marginal
と明記している。
コスト増の主因は検査代そのものではなく、
- 長生きする
- preventive treatment が長く続く
という方向だ。
ここはかなり大事だ。
高いからダメ ではなく、
効くからその分治療期間が延びる
というコストだからだ。
でも、ApoB が強いのは JAMA モデルだけではない
「モデル研究だからな」で切るのは早い。
臨床側でも順番は同じだからだ。
2011年のメタ解析 は、
- 233,455人
- 22,950イベント
をまとめて、
- ApoB RRR 1.43
- non-HDL-C RRR 1.34
- LDL-C RRR 1.25
と出している。
within-study の差で見ると、
- ApoB は non-HDL-C より 5.7%強い
- ApoB は LDL-C より 12.0%強い
- non-HDL-C は LDL-C より 5.0%強い
だった。
順番はきれいだ。
ApoB > non-HDL-C > LDL-C
で、一貫している。
ここで見えているのは、
ApoB だけが圧勝
というより、
LDL-C が一番弱く、non-HDL-C がかなり善戦し、ApoB が最後にもう一段詰める
という構図だ。
この読み方をすると、JAMA 2026 の結果ともきれいにつながる。
statin治療下でも、ApoB が一番「イベント減少」をよく説明する
さらに 2014年の statin trial meta では、
各マーカーの低下量と CHD risk reduction のつながりを見ている。
1 SD 低下あたりの CHD risk reduction は、
- LDL-C: 20.1%
- non-HDL-C: 20.0%
- ApoB: 24.4%
だった。
そして within-trial 比較では、
- ApoB は LDL-C より 21.6% 強く risk reduction に対応
- ApoB は non-HDL-C より 24.3% 強く対応
していた。
ここから読めるのは、
治療中の residual risk をどの指標で見るか
という文脈でも、ApoB に分があるということだ。
つまり、
- baseline の予測力でも
- on-treatment の説明力でも
- cost-effectiveness でも
順番がほぼ崩れない。
じゃあ、ApoB 一択でいいのか
そこまで単純ではない。
effect size 原理主義で見ると、ここで大事なのは
incremental gain の大きさ
だ。
LDL-C から non-HDL-C へ上げる時の gain は、かなり気前がいい。
- 追加コストほぼなし
- QALY増
- しかも cost-saving
一方、non-HDL-C から ApoB への gain は、
- たしかに strongest
- でも incremental
- cost は増える
という構図だ。
だから意思決定としては、
1. LDL-Cだけで止まらない
これはもうほぼ確定。
2. 無料で一段上げるなら non-HDL-C
これが最もおいしい。
3. discordance が怪しいなら ApoB
- 高TG
- 肥満
- 糖代謝異常
- 既に治療しているのに residual risk が気になる
このへんでは、ApoB の価値が上がる。
竹内の結論
今回の JAMA 2026 を effect size で読むと、かなり地味だが強い結論になる。
LDL-C は基準線として残る。
でも、
最適化の順番としては一番後ろだ。
non-HDL-C は、
- 無料
- 追加採血不要
- LDL-C より臨床的に強い
- しかも JAMA では cost-saving
だから、
今すぐ全員がやるべき upgrade に一番近い。
ApoB はさらに強い。
しかも JAMA 2026 の ICER $30,300/QALY は、かなり素直に「安い側」だ。
ただし gain は incremental なので、
全員に毎回ApoB
と叫ぶより、
まず non-HDL-C、必要なら ApoB
の方が、臨床的にも経済的にもきれいだ。
まとめ
- 臨床 effect size の順番は ApoB > non-HDL-C > LDL-C
- JAMA 2026 でも non-HDL-C は LDL-C より QALY増 + cost-saving
- ApoB はさらに 1324 QALYs 増、ICER $30,300/QALY
- LDL-Cだけで意思決定するのが一番非効率
- 実務は
- 無料アップグレード = non-HDL-C
- 有料アップグレード = ApoB
家族向けの使い分けは 脂質検査は何を見るべきか、ApoB時代に家族の血液検査をどう読むか に書いた。
より根本の ApoB vs LDL-C の話は、LDLコレステロール検査では5人に1人でリスクを見逃す問題がある も合わせて読むとつながりやすい。